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コラム:熱流体

ゼロフロー時の伝熱解析について

アプリケーションサービス部 CAEサービス第2課 北岡 佳貴

[2019/06/21]

私たちの身の回りには、熱を制御(管理)する機器が多く存在します。身近なもので言えば、扇風機やエアコンを始めとする家電製品がすぐ思いつくかと思います。産業分野で掘り下げて見ると、自動車分野ではエンジンの冷却回路、プラント分野ではLNG(液化天然ガス)輸送配管の冷却や発電所の冷却システム、そして造船分野では推進システムの冷却など、熱管理システムを挙げると枚挙に暇がありません。

ここでは自動車エンジンの冷却回路を例に、熱の流れについて見ていきます。エンジンの冷却経路では、タンク内の冷却水がポンプにより圧送され、エンジンブロックで温められます。そして冷却水が受け取った熱は熱交換器(ラジエータ)から雰囲気に排熱され、冷却水は再びタンクに戻る循環回路になります。このシステムを設計する上で、エンジン始動時や停止時に冷却水の温度が設計要件を満足するかどうか、またポンプや熱交換器等の仕様が十分であるかどうかを検討するのは非常に重要です。

このようなシステムの検討では、実験だけでなく1次元熱流動解析ツールを利用して予測するのが効率的であり、一般的となります。

また冷却水は常に循環しているわけではなく、速やかな自動車の暖機性能を実現させるため、エンジン周りの冷却水の流れをサーモスタットや冷却ポンプなどによって、一時的に止める方法も採用されています。流れが止められると強制対流熱伝達や移流によるエンジン周りの熱輸送は抑制され、エンジン周りが速やかに高温となります。その結果、摩擦損失が小さくなり、燃料消費量や排出ガスが低減されます。

しかし、一般的な1次元熱流動解析ツールでは移流による熱の移送のみを考慮しており、上記の暖機運転のような流れが停止(ゼロフロー)した時における熱の移動を正確に予測できないことがあります。ゼロフロー時であっても下図のように流体及び管壁内の熱伝導によって熱は拡散するので、ゼロフローのシステムを評価するためにはこの現象を考慮する必要があります。

図 流体の熱が伝わる様子

図 流体の熱が伝わる様子

下図左は自動車エンジンの冷却回路を、ゼロフロー時の伝熱解析が可能な1次元熱動解析ツールであるFloMASTERでモデル化したものです。この様なモデルを作成することにより、グラフに示すように冷却水をゼロフローにしてエンジンブロックを温めた場合と、解析開始から常に冷却水を循環させた場合のエンジンブロックの温度上昇を比較評価することができます。

また下図右は簡単なイメージ図になりますが、プラント分野においても配管の凍結防止用ヒーター等への適用が考えられます。

図 FloMASTERを用いた設計モデル

図 FloMASTERを用いた設計モデル

FloMASTERはゼロフロー時の熱流れをモデル化することができますが、上述の通り解析ツールによってはゼロフローなど特定の現象を模擬できないものもあります。そのため、解析ツールを使用する場合には解析結果の妥当性を判断できるように、どういった現象が生じるのかを十分イメージすることも大切です。

関連製品についてはこちら

1次元熱流動解析ソフトウェアFloMASTER
http://www.engineering-eye.com/FLOWMASTER/