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コラム:衝撃・安全

TEXCOMP-13から見るテキスタイル複合材料研究の動向

科学・工学技術部 複合材技術課 山本 琢也

[2018/10/19]

会場の様子

会場の様子

本年9/17から9/19までイタリア・ミラノのミラノ工科大学(Politecnico di Milano)にて複合材料国際学会TEXCOMPの第13回が開催されました。TEXCOMPは隔年で開催されているテキスタイル複合材料(長繊維やファブリックを強化材とする複合材料)専門の国際学会シリーズです。この分野では最大規模で先端的な学会とされています。

今回のTEXCOMPには、CTCから私を含めて4名が参加致しました。さらにスポンサーとして大会へ援助も行い、会場ブースや学会のハンドアウト等でComposites Dreamのアピールを行いました。
その報告については出張報告にゆずり、本稿ではTEXCOMP-13の発表内容から見てとれるテキスタイル複合材料研究の動向をお伝えしたいと思います。

今回の参加者は総勢92名、発表総数は78件でした(CTCの2件を含む)。開催されたセッションとその発表件数は次の通りです。

製造 11
強化材の成形 12
特性とダメージの評価 6
バーチャルテキスタイル 10
モデリング 11
疲労 6
ナノエンジニアリング 7
ボイドを含むFRPの機械特性 9
ナチュラルファイバー 6
合計 78(発表者は80名)

上から6つのセッション(「製造」から「疲労」まで)については以前より扱われているテーマです。また下の3つ(「ナノエンジニアリング」、「ボイドを含むFRPの機械特性」、「ナチュラルファイバー」)は最近のトピックのために新設されたセッションです。以下では各セクションのテーマとその動向を解説します。

「製造」はFRP製造時における課題、また製造法の提案および製造装置の開発などを扱います。メインテーマは樹脂含浸の問題であり(発表5件)、ファブリックタイプの含浸性能の比較や、製造時の熱過程の違いが特性に与える影響などが報告されています。また最近の製造装置として、tailored fiber placement(TFP; 機械的に連続繊維を配置する製法)や連続繊維を含む3Dプリンタ技術の報告がありました。
「強化材の成形」は複合材料のベースとなる強化材を製品形状に変形させるドレープの問題を扱います。製造の一部であるものの重要性のためこのテーマだけで1つのセッションが設けられています。ソフトな状態の繊維およびファブリックについて、ドレープにおける挙動の観察やその評価手段が提案されていました。またFEMのための解析モデルと材料構成則について報告がありました。
「特性とダメージの評価」は測定のセッションです。複合材料の機械特性やき裂の観察などの計測問題が扱われます。X線トモグラフやアコースティックエミッションなどの非破壊検査が内部のダメージを測定するために良く用いられていました。さらに試験中にき裂などのダメージをその場観察(in situ)するものが目立ちます。さらに樹脂の結晶化度や繊維と密着性などの化学的性質に関する報告もあります。
「バーチャルテキスタイル」は計算機を用いた研究が対象で、CAEと関連の深いセッションです。テキスタイルのCAD形状作成や、FEMによる複合材料の機械特性の予測、製造プロセスシミュレーションなどが報告されます。CTCの2件の発表(≒Composites Dreamの紹介)もここで行いました。
「モデリング」は上記の計算機シミュレーションの基礎となる数学表現を議論するためのセッションです。製造プロセスから強度解析までを幅広く対象とします。例えば、測定イメージをCAD形状に変換するための数値的処理や、熱可塑材ドレープにおける残応力を解析するためのモデルの提案などが報告されています。
「疲労」では機械疲労と化学(環境)疲労の問題が扱われます。織物や組物の疲労寿命測定や、ダメージが進展するメカニズムが報告されています。また疲労特性の改善のために樹脂の改質やパウダーなどの混ぜ物を入れる例が報告されていました。
「ナノエンジニアリング」はカーボンナノチューブ(CNT)を用いた研究を扱うために新設されたセッションです。報告を聞く限りCNTの使い方は3つのようです:①樹脂に混ぜる。②繊維の表面から成長させる、③繊維をステッチする(nanostiching)。いずれも、樹脂との剥離強度を高めるため、またはき裂進展を阻害する目的に使われるようです。
「ボイドを含むFRPの機械特性」は製造時に必ず含まれるボイドの問題を集中的に扱うセッションです。大部分の研究でX線CTが用いられ、ボイド形態やそれに関連するダメージの観察が行われていました。またCTイメージからボイドを含むFEモデルの構築なども報告がありました。
「ナチュラルファイバー」は自然由来の繊維を扱うセッションです。環境負荷の低い繊維を探すことがテーマです。扱われていた繊維は様々で、亜麻(flax)や黄麻(jute)などの植物由来のものや、玄武岩(basalt)繊維などもありました。従来の炭素やガラス繊維と比較して、機械特性や樹脂との密着性の違いが報告されておりました。

以上、TEXCOMP-13におけるテキスタイル複合材料の研究動向をお伝え致しました。みなさまのご参考になりましたら幸いです。なお各発表には予稿が付属しており、下記よりダウンロード可能です。ご興味がありましたらこちらもどうぞご参照下さい。

Materials Science and Engineering vol.406 (2018), 13th International Conference on Textile Composites (TEXCOMP-13)
http://iopscience.iop.org/issue/1757-899X/406/1

以上