コラム:マルチフィジックス
原子力・エンジニアリング部 数値解析技術課 田島 誠一
[2018/06/15]
低サイクル疲労は、材料の損傷・破壊の一形態として分類されており、一般に破壊・破断までの繰返し荷重が10万回を超えない、少ない回数となる現象として位置付けられています。あるいは、疲労曲線として、塑性ひずみ範囲と破断寿命の関係式であるManson-Coffin則と、弾性ひずみ範囲と破断寿命の関係式であるBasquin則が知られていますが、この2つの曲線の交点となる繰返し数を基準として、これより小さい繰り返し数の範囲を低サイクル疲労、大きい繰り返し数の範囲を高サイクル疲労とする分類がなされています。
低サイクル疲労では、一般に損傷部位は、応力集中部など、降伏応力以上となる大きな繰り返し荷重が発生する箇所となります。このため、破断寿命は、塑性ひずみ範囲との関係付けにより整理されてManson-Coffin則として認識され、多くの金属材料について有効性が確認されてきました。他方、機械構造物の実際において計測可能となる値は、一般に全ひずみ範囲となります。このため、破断寿命と全ひずみ振幅との関係付けも多く検討されてきており、特に鋼の場合、材質の影響を受けずに、一本の低サイクル疲労寿命曲線で表されることが分かっています[参考文献2]。
ここで、少し観点を変え、低サイクル疲労における破断までの過程を考えた場合、繰り返し荷重により亀裂が発生するまでの過程(亀裂発生寿命)と、亀裂が進展し破断に至るまでの過程(亀裂進展寿命)とに分けて考えることができます。この点では、実際の機械構造物に適用された場合、試験片を用いた疲労試験によって同定されたManson-Coffin則や全ひずみ振幅による低サイクル疲労寿命曲線は、亀裂発生寿命を評価するものとして通常捉えられます。
試験片での過程を考えた場合でも、寸法は小さいものの、破断までにはき裂の進展が起こっていることになります。このため、Manson-Coffin則と微小な亀裂伝播が実質的には等価なものである、という議論もなされており、実験から求めた亀裂進展速度と亀裂長さ、応力範囲の関係式に、対象の材料の応力範囲と塑性ひずみ範囲の関係式を適用し、Manson-Coffin則型の関係式が導かれています[参考文献3]。
このように低サイクル疲労という現象においては、長く国内外で検討・整理が行われており、CAE分野での適用においても、高い合理性、信頼性の下で行える状況にあると考えられます。弊社で実施した低サイクル疲労に対する疲労解析と亀裂進展解析の連成による、亀裂発生寿命と亀裂進展寿命とを合わせた評価においても、実際の計測値との高い一致性が得られることを確認しています。
FEMによる3次元き裂進展解析ソフトウェア:FINAS/CRACK
http://www.engineering-eye.com/FINAS_CRACK/