HOME技術コラム一歩先の地盤解析へ

コラム:建設系

一歩先の地盤解析へ

原子力・エンジニアリング部 耐震工学技術1課 橋本 紀彦

[2018/06/15]

2011年東北地方太平洋沖地震を契機に、安全工学分野におけるシミュレーションに対する要求事項も変化してきたように感じます。想定外を可能な限り防ぐために考えうる無数のシナリオについてシミュレーションする、構造物が破壊した後の挙動をシミュレーションする、CAEエンジニアにとって量においても質においても難易度が上がってきたのではないでしょうか?

地盤工学分野においても、例に漏れずシミュレーションの高度化が求められております。例えば、ある地震時に重要施設の背後斜面で地すべりが生じないか、という解析をする場合、「ある地震」の規模が際限なく大きくなれば当然斜面は崩れてしまうシミュレーション結果となり、安全評価上NGということになります。このような場合には、地すべりが発生したときに地すべり土塊が重要施設まで到達しないか、というシミュレーションを実施します。それでもNGなら、地すべり土塊が重要施設の防護壁に激突しても破壊には至らないか、といったことを検討していきます。箇条書きで解析の目的をまとめると、以下のようにどんどん複雑な現象をシミュレーションすることになります。

課題Ⅰ ある地震時に重要施設の背後斜面で地すべりが生じないか?
課題Ⅱ 地すべりが発生したときに地すべり土塊が重要施設まで到達しないか?
課題Ⅲ 地すべり土塊が重要施設の防護壁に激突しても破壊には至らないか?

ところで、弊社で取り扱っている地盤解析ソフトの1つであるITASCAソフトウェアについてご存知でしょうか?ITASCAソフトウェアはITASCA社(Itasca Consulting Group, Inc.)が開発したソフトウェアラインナップになります。ITASCA社は個別要素法の提案者であるPeter Cundallらによって1981年に設立されたエンジニアリング・コンサルティング会社です。今回は、同社が開発したFLAC3DとPFC3Dの2つのソフトウェアを、前述のような複雑な現象のシミュレーションを実施するための強力なツールとしてご紹介させていただきます。

課題Ⅰの斜面の地すべり発生の有無について検討するには、円弧すべり解析法やFEMを用いたせん断強度低減法などが考えられます。また、大きな入力地震動によって斜面が大変形する状態での安全率の算出には、幾何学的な非線形性も考慮する必要があります。「有限差分法解析ソフトFLAC3D」ではUpdated-Lagrangian法を採用しているため幾何学的非線形を考慮することができ、インターフェース要素を用いることで破砕帯や断層のような不連続面の接触問題も扱うことができます。もちろんFLAC3Dは地盤工学分野に特化したソフトウェアですので、様々な構成モデルで材料非線形性も考慮することも可能です。例えば、微小変形理論に基づいた解析を実施してみた結果、大きなひずみが算出されたため、有限変形理論に基づいたFLAC3Dを用いてその妥当性を検討する、というような目的でご導入いただくこともあります。

イメージ

続いて、課題Ⅱの地すべり土塊の移動距離を検討してみましょう。地すべり斜面から土塊が分離して滑落するような現象も考えられるため、連続体を主なターゲットとしたFLAC3Dでは困難な場合があります。そこで、不連続体としての挙動を扱うことができる「個別要素法による粒状体挙動解析ソフトPFC3D」を用いると、地すべり土塊の動きまでシミュレーションすることができるようになります。地すべり土塊を小さな粒子の集まりとして表現することもできますし、任意の流体解析ソフトと連成させることで液化した土砂の動きをシミュレーションすることもできます。

さらに、課題Ⅲの防護壁と地すべり土塊の衝突はどのようにシミュレーションすればよいでしょうか?PFC3Dでは不連続な粒子によって物体を表現するため、防護壁を連続体として表現して変形や応力分布を評価することは得意ではありません。そこでFLAC3DとPFC3Dの連成解析機能を用いると、防護壁をFLAC3D側で計算し、地すべり土塊をPFC3D側で計算し、両者の計算結果をソケット通信で逐次反映させることができます。

このように、ITASCAソフトウェアラインナップは一般的にシミュレーションすることが困難な非線形現象を扱うことを得意としています。今まで諦めてしまっていた複雑な現象のシミュレーションについても、もしかしたら本ソフトウェアを用いることで(あるいは組み合わせることで)実施することができるかもしれません。シミュレーションに求められる難易度が高まる昨今において、困難な課題に直面した際にはITASCAソフトウェアについてご一考いただければと思います。

関連製品についてはこちら

2次元/3次元有限差分法解析プログラムFLAC
http://www.engineering-eye.com/FLAC/

2次元/3次元粒状体挙動解析プログラムPFC3D
http://www.engineering-eye.com/PFC2D3D/