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コラム:超音波・電磁技術

超音波エラストグラフィへのシミュレーションの適用

科学システムサポート部 CAEサポート課 入谷 佳一

[2018/02/16]

先日、圧電超音波解析ソフト PZFlex のユーザーインタビューとして、東京大学医学部東教授を訪ねました。インタビューでは、医療機器の開発や、課題など興味深いお話をお聞かせいただくことができました。インタビュー記事はもうすぐ、弊社engineering-eyeに掲載される予定です。

さて、インタビューの際、東先生は、超音波伝播解析において音響輻射力を評価できるコードは他にないとおっしゃってらっしゃいました。そこで本稿では音響輻射力を活用したテーマとして超音波エラストグラフィのシミュレーションを紹介いたします。

古来、医療の診断においては、触診が有効な診断手法として用いられてきました。病変した組織は、組織の硬さが変化することが多いため、触診で硬さの異なる箇所を探すことで、疾病を発見できるためです。
今世紀に入り、超音波により生体内の硬さの変化をみることができる超音波エラストグラフィが実用化されました。癌などでは、CT、MRIでは画像に写る組織変化が生じる前の段階で、硬さの変化が起こることから、超音波エラストグラフィは早期診断に役立つことが期待されています。

音響輻射力を利用した超音波エラストグラフィーの主な手法としては、音響輻射力による生体の変形を計測して硬さの分布を求めるAFRIイメージングと,超音波集束部の音響輻射力圧により生じる横波(シェアウェーブ)の音速を計測して硬さの分布を求めるシェアウェーブ・イメージングがあります。シェアウェーブ・イメージングは後発の手法ですが、計測対象である音速は、音響輻射圧の強さに依らないため、硬さの定量評価可能であるなどの特徴があります。ところが、この手法は励振法に依存する、伝播方向によるアーチファクトが生じるなどの課題もあります。そこで、これらの課題を、シミュレーションにより検討できれば、設計、運用を効率化することができます。

シミュレーションを行う上で必要な課題は、主に非線型現象である音響輻射力の計算、照射する超音波(縦波1500m/s程度)と観測する超音波(横波1m/s程度)のタイムスケールの違いへの対応です。2点目の課題のために、直接解析を実施した場合膨大なステップ数となり計算が困難です。また、音響輻射力は微弱であるため、長い計算の中で数値誤差に埋もれてしまいます。

PZFlexでは解析を、音響輻射力の評価と評価された音響輻射力を境界条件とする横波伝播の計算の2ステップに分けて解析することで、精度を維持したまま、短時間での計算を実現します。

2つの超音波エラストグラフィーの手法について、簡単なモデルでの解析事例を紹介して本稿を終わります。

イメージ
  1. ARFIイメージング
    癌を模擬した球体に平面波を入射します。図(1-1)上段に圧力分布と図(1-1)中段、下段にそれぞれ生じた音響輻射力のx成分、y成分をに示します。シミュレーションでは近似式では計算できない応力の各成分を計算することができます。また、生じる腫瘍の変位も計算可能です。図(1-2)には、生じる変位を腫瘍の硬さをパラメータとして比較しました。腫瘍が硬くなると変位が小さくなることが確認できます。
  2. シェアウェーブ・イメージング
    図(2-1)に集束した超音波の最大圧力分布、図(2-2)には生じた横波の伝播の様子を示します。シミュレーションでは、応力の各成分の分布が計算できるため、それに従って生じる横波の指向性、伝播の計算が可能です。

PZFlexは、超音波デバイスの設計のためのデファクトスタンダードとして世界中で活用されおり、超音波の伝搬、圧電効果の解析をベースに、発熱、熱変形含む広範な現象の検討に御活用いただけます。詳細につきましては、以下のURLにて御確認いただけます。