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衝撃波の基礎:衝撃波管の原理をダム決壊と待ち行列で考えてみた

科学・工学技術部 阿部 淳

[2018/02/16]

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図1 衝撃波管の基本原理

衝撃波は高速衝突や爆発に必ず生じる物理現象ですが、日常ではなかなか体感することはできません。衝撃波とは「媒体の音速を超えて伝播する不連続な波」ですが、この「音速を超える」と「不連続な波」の両方を満たすためにはよほど強い衝撃を与えないとなかなか達成することができないからです。そのような衝撃波を研究するために衝撃波管というものがあります。といっても多くの方は「知らない」「見たことがない」と言われると思います。確かにどこにでも転がっているようなものではありません。しかし、原理は至ってシンプルです。図1のようにまず両端を閉じた一本の筒を用意して、真ん中に薄い膜を取り付けます。片方はそのまま1気圧、もう片方は自転車の空気入れみたいなもので少しずつガスをスコスコ入れていきます。すると中央の膜が差圧に耐え切れなくなり破裂し、片方の高圧側のガスが1気圧側のガスを押し出して、1気圧側に衝撃波が発生します。これを数値シミュレーションしたものが図2および図3の動画です。高圧室は3気圧、低圧室は1気圧です。実際の衝撃波管には、衝撃波の精度や再現性を高めたり、より強い衝撃波を発生させるための賢くて複雑な工夫が追加されていますが、原理は変わりません。

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図2 衝撃波管の圧力コンター動画

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図3 衝撃波管の圧力プロファイル動画

といってもやはりまだ多くの方は「?」かもしれませんね。これを類似の現象に置き換えてみましょう。イメージしやすいのはダム決壊現象です(ダム関係の皆様、申し訳ありません。あくまでも仮の話です)。水がたっぷり貯まったダムがあり、ダムの下流は議論をシンプルにするため水が完全に干上がった状態とします。この状態からダムが決壊(というよりも一瞬で消失)したとします。図3の圧力プロファイル動画の縦軸を水位としてみてください。ダムが消失するとダムの水は勢いをつけて下流側に流れ出します。この波頭が衝撃波のような波と見なすことができます。一方でダムの水はすぐに空になるわけではなく、消失したダムの位置から上流側に向かって水位を低下させる波が伝播していきます。これは膨張波のような波となります。どうでしょう、イメージできましたか?
このイメージは衝撃波管の現象を理解するのにとても有効なのですが、いくつか注意点があります。まず、ダム決壊時に流出する水の波頭の速度は水の音速(1500m/s程度)を超えることはないはずです。したがって、この波頭は不連続になるかもしれないけど音速を超えることはないので、あくまで衝撃波類似現象となります。したがって「・・・のような波」と記載しています。
もう一点の注意点としては、このダム決壊モデルの場合は下流に水が一切ないため、波頭速度が水粒子の速度となります。

「波頭速度」=「水粒子の速度」(このダム決壊モデルの場合)

多くの方は「当たり前ではないか」と思うかもしれません。ところが実際の衝撃波の場合は波頭速度≠水粒子速度であり、波頭速度は粒子速度よりも必ず速くなります。

「波頭速度」>「水粒子の速度」(実際の衝撃波現象)

これを説明するために、もうひとつ衝撃波類似現象をイメージしてみましょう。飛行機が空港に着陸して、飛行機のドアが開くまでの時間を想像してください。通路には我先に出ようとする人の行列ができます。まだドアが開いていないので誰もがその位置に立ったまま静止している状態です。ここでドアが開いた時、その先にまったく人がいないものとすると(図4)、先頭の人は自分が思う速度で飛び出すことができます。これは下流に水が無い場合のダム決壊モデルと一緒ですね。その人が歩く(爆走する)速度が波頭速度となります。

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図4 待ち行列モデル(行先に待ち行列がない場合)

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図5 待ち行列モデル(行先に待ち行列がある場合)

一方で、もしドアが開いた先にも人の待ち行列があった場合を考えます(図5)。先頭の人が本当に人間であれば「まじかよ?」とは思うものの、おとなしくその待ち行列の後ろにしぶしぶ並ぶでしょう。しかし、ここでは水や空気の粒子のような振る舞いをするものとします。その結果、その先頭の人は行列の最後尾の人の背中を手でドンッと押してしまいます。すると、その勢いで最後尾の人は「おっとっと」とよろけてしまい、その前の人の背中を手で押してしまいます。この「おっとっと」押し出し現象は次々に前の人に繰り返し行われます。すなわち、この押し出しが待ち行列の中を前方に伝播していくのです。これが衝撃波のような波と考えることができます。しかし、待ち行列の中の人は「おっとっと」と少しだけ移動したに過ぎず、これより波頭速度は粒子速度よりも速いと考えることができます。
こう考えた場合、上述のダム決壊モデルは衝撃波管で言うと低圧室が真空の場合に相当するかもしれません。衝撃波はあくまでも何らかの媒体中に発生しますので、この違いに注意する必要があります。これらの違いに注意しつつ、衝撃波類似現象をイメージすることで実際の衝撃波現象の理解が深まると言えるでしょう。

もっと衝撃波について知りたい方は「テクニカルコラム 衝撃波の科学」へ
http://www.engineering-eye.com/rpt/c007_shockwave/