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コラム:建設系

長周期地震動予測地図の概要と
東北地方太平洋沖地震後の再評価について

科学・工学技術部 建設技術課 尹 淳恵

[2017/02/17]

長周期地震動予測地図とは

2003年十勝沖地震の際に、震央から遠く離れた北海道内の製油所で火災が発生し、その原因の一つとして長周期地震動による石油タンクのスロッシングが注目されました。2011年東北地方太平洋沖地震でも広い範囲で長周期地震動が観測され、千葉の製油所で火災・爆発が発生し、また複数の石油タンクでスロッシングの影響から原油の漏えい等が確認されました。 こういった事象を受けて、 CTCではSoilPlus(地盤・浸透・耐震統合FEM解析システム)や FINAS/STAR(大規模非線形構造解析システム)を用いたスロッシング解析を実施しています。
今回紹介する「長周期地震動予測地図」とは、ある特定の大地震が発生した場合にその周辺や遠方に生じると想定される、長い周期(周期2.0 秒以上)の地震動の分布を示したものです。作成者は官公庁職員・大学教員・研究機関研究員から構成される地震調査研究推進本部地震調査委員会です。

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対象とする地震

長周期地震動予測地図は2009年に想定東海地震、東南海地震、宮城県沖地震を対象とした第1版が公開されました。その後、2011年東北地方太平洋沖地震の発生を受けて、特に大規模・低頻度の地震を考慮するための検討がなされ、2012年には震源モデルや地下構造モデルなどを改良した南海地震も対象として第2版が公開されました。更に2016年には相模トラフ沿いの巨大地震も対象とした第3版が公開されました。

参考URL

http://www.jishin.go.jp/evaluation/seismic_hazard_map/lpshm/

予測手法と公開地図

予測手法は震源断層や地下構造をモデル化して、地震発生時の長周期の地震波形を計算しています。比較的短周期(周期約0.1~1秒程度)の揺れによる震度分布を対象として作成された予測地図も別途ありますが、「長周期地震動予測地図」では、比較的長周期(周期2.0 秒以上)を対象とし、最大速度分布図、継続時間分布図、速度応答スペクトル分布図を提示しています。これにより、どの程度の強さの長周期地震動が、どの程度長い時間続くのか、固有周期5秒、7秒、10秒の超高層ビルなどの長周期構造物がどの程度の速度で揺れるのかの目安が示されます。

妥当性の確認方法

震源モデルと地下構造モデルから計算して求めた地震波形と実際に観測された地震計の記録を比較することで、予測手法の妥当性を確認しています。また、過去の地震の震源モデルが分かっている場合は、同じ領域で破壊を繰り返す可能性が高いことを前提に、その震源モデルを前イベントとして予測に用いています。

東北地方太平洋沖地震後の再評価

2011年東北地方太平洋沖地震の発生を受けて、これまで知られていたよりも大きな規模の地震まで考慮する必要が生じました。特に、巨大地震発生の切迫性が指摘されている南海トラフの地震や、人口が集中する首都圏に大きな影響を及ぼす相模トラフの地震については、過去に例のない巨大地震も考慮した長周期地震動に関する研究・検討が早急に必要と考えられ、両地震を対象とした長周期地震動予測地図が2012年・2016年に公開されました。更に、2011年東北地方太平洋沖地震の長周期地震動シミュレーションを行い、観測された地震計の記録との比較により、震源モデルの設定手法の改良方策も提示されています。
現在も海溝型地震の長周期地震動の予測精度向上を目指し、対象周期を約 1秒以上にするための三次元地下構造モデルの改良、断層パラメータの多様化による震源モデルの高度化、表層地盤を含めた地下構造全体を一体としたモデル化等の検討がなされているようです。

CTCとの関連

CTC では長周期地震動に関して、冒頭に挙げたスロッシング解析のみならず、長周期地震動予測地図と類似する手法を用いて震源断層や地下構造をモデル化し、Geowave(ボクセル型有限要素法による大規模3次元地下構造地震波伝播解析ソフトウェア)による地震波形を計算して、地震動予測や地震動シミュレーションも行っています。つきましては引き続き長周期地震動に関連した予測解析も行い、地震減災の一助となりたいと思います。

地盤・浸透・耐震統合解析システム「SoilPlus」
http://www.engineering-eye.com/SOILPLUS/

大規模非線形構造解析システム「FINAS/STAR」
http://www.engineering-eye.com/FINAS_STAR/

大規模3次元地下構造地震波伝播解析ソフトウェア「GeoWAVE」
http://www.engineering-eye.com/GEOWAVE/