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コラム:製造・構造

中国のCAE現状
~ 2016中国CAE年次会議の紹介 ~

科学システムサポートチーム CAEサポート課 李 爽

[2016/12/16]

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近年、計算機の性能が進化することで、CAEの進化が日々著しく進んでいます。
自動車メーカーや重工業メーカーなどにおいて、LS-DYNA等CAE汎用ソフトを利用し様々な課題の解決に繋がっています。世界各国で CAEを取り込んでいる中、世界一人口数を抱えている中国のCAE業界の現状を覗くことで、今後中国のCAE前景の動向をある程度把握でき、ビジネスチャンスに繋がるかもしれません。

中国のCAEの現状に言及すると、中国CAE工程分析技術年会について話さなくてはなりません。中国 CAE工程分析技術年会は、中国機械工程学会並びに中国力学学会及び中国計算機学会が主催し、中国国内の CAE業界の一大イベントであり、2005年から毎年開催され、今年で12回目となりました。今までの開催都市は、2005年:北京市、2006年:青島市、2007年:大連市、2008年:西安市、2009年:蘭州市、2010年:哈爾浜市、2011年:昆明市、2012年:成都市、2013年:黄山市、2014年:貴陽市、2015年:桂林市、2016年:長春市です。

2016年は、長春の華天大酒店というホテルで開催され、5大トラックの24分野の講演があり、参加者数は約300人(中国にしては意外に少ないですね)とのことでした。講演は離散symplectic数値解法の紹介の基調講演から始まり、構造のトポロジー最適化の応用、計算接触力学、クラウド計算、スパコン“天河”による並行CAE計算まで多岐にわたり、各業界の関係者たちの高い注目が集められました。各トラックの主な講演内容は下記となります。

  1. CAE/CADソフトの自主開発
    クラウド計算対応のCAE自主ソフト開発現状の紹介
  2. 人と自動車
    自動車業界安全基準の変遷、ロードノイズ分析、車体断面形状の最適化、サスペンションのNVH解析、車体軽量化など様々な事例紹介
  3. 先端CAE技術紹介
    最新のスーパーコンピュータによる大規模並行CAE計算
  4. 重工業におけるCAE
    疲労解析、複合材タイヤ設計におけるCAE解析
  5. 解析におけるV&V
    飛行機のリブ板の強度コリレーション、板成型加工における板金部品の解析精度調査など

会議の講演内容から見ると日本とほぼ変わらず、やはり自動車業界におけるCAE解析や話題のクラウド計算及びスパコンによる並行計算が注目されていました。また、CAE解析のみならず、製造や設計段階との連携により、生産効率の向上を期待する傾向も窺えました。

次に、2016年のトピックスとして、symplectic数値積分法について簡単にご紹介します。一般的に広く使われている差分法(Euler法やRunge-Kutta法など)は、原理的に計算誤差が少しずつ蓄積する為、最終的に系全体のエネルギーの保存がしなくなる欠点があります。それに対して、symplectic数値積分法は、系のエネルギー散逸を原理的に克服しました。symplectic という言葉は、1939年Weylによって提案され、1980年代後半ごろにsymplectic数値積分法が発表されました。既存のHamilton系に対して、更に変数を含む近似Hamilton系を設定し、それに基づいた陽的symplectic正準変換を与える手法が紹介されました。正準変換でsymplecticの性質を保持でき、且つ近似Hamilton手法の変数を調整することで、系のエネルギーの保存も同時に守られました。symplectic数値積分法がまだ市販のCAEソフトに実装されておらず、開発されている段階ですが、今後の発展が期待できます。

汎用非線形構造解析シミュレーションツールLS-DYNAの紹介ページはこちら
http://www.engineering-eye.com/LS-DYNA/index.html