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コラム:プラント

配管系解析における材料の基本許容応力値

科学システムサポートチーム CAEサポート課 本橋 賀津彦

[2016/08/26]

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炭素鋼の常温における縦弾性係数の値は、どの設計規格においても200GPa程度と規定されていると思います。縦弾性係数は材料の物理的な特性を示すものですので、設計規格によって値が大きく変わることはありません。一方、長期応力や変位応力(熱応力)等の許容値算出に使用する基本許容応力は、安全に設計を行なうために各規格ごとに定められた値です。つまり、同じ材料名であっても設計規格によって基本許容応力の値は異なります。また、同じ設計規格であっても年版によって基本許容応力の値が変更されることもあります。

発電用火力設備の技術基準の解釈(以降は火技解釈と記載)が2016年2月に改訂され、公布・施行されました。改定された火技解釈では、安全率の見直しが行なわれています。材料の基本許容応力の値は様々な要因から決定されますが、その一つに引張強さの安全率があり、今回の改定で4.0から3.5へ変更されています。これにより、各材料の基本許容応力が大きくなっています。例えば、STPT410の常温での引張強さは410MPaですが、新旧火技解釈における基本許容応力は以下のようになっています。

従来版 :410/4.0  ⇒ 103MPa
改訂版 :410/3.5  ⇒ 118MPa

なお、すべての材料の基本許容応力値が上記のように変更れているわけではありません。SS、SGP、STPY等、基本許容応力値が変更されていない材料もあります。
AutoPIPEでは、火技解釈の基本許容応力をAUTOPOWJライブラリとして提供していますが、6月にリリースした、日本語最新版の AutoPIPE CONNECT Edition(ver.10.01.00.08)に附属するAUTOPOWJライブラリには、改訂された基本許容応力が登録されています。

米国ASME規格では、1999年に安全率が4.0から3.5に変更され、B31.1規格(Power Piping)においても2005 Addenda において、材料の許容応力の値が変更されました。また、国内においても、高圧ガス保安法、労働安全衛生法、ガス事業法、圧力容器の設計(JIS B 8267)、発電用火力設備規格(日本機械学会)等の法規や規格において、部分的に安全率3.5 が導入されていましたが、ようやく火技解釈においても導入が実施され、国内外の規格との整合が図られたことになります。
なお、同じASME規格でも、B31.3規格(Process Piping)では、安全率には3.0が用いられています。B31.1およびB31.3の基本許容応力の安全率を比較すると以下のようになります。

B31.1-2004年以前 :安全率 4.0
B31.1-2005年以降 :安全率 3.5
B31.3 :安全率 3.0

なお、B31.1において、規定最小引張強さが70ksi(480MPa)を超える材料については、変位応力(熱応力)の許容値(Sa)を算出する際の低温時および高温時の基本許容応力(ScとSh)は、その上限が20ksi(140MPa)に制限されます。

規格の規定を理解し、これに対応した材料ライブラリを選択することが要求されます。例えば、応力評価コードがB31.1の場合は材料ライブラリとしてAUTOPOWJやAUTOJISMを使用し、B31.3コードではAUTOJPIMを使用することになります。
仮に、応力評価コードがB31.3のモデルにおいて、安全率が3.5や4.0のライブラリ(AUTOPOWJやAUTOJISM等)を選択している場合、規定より小さな基本許容応力を使用することになりますので、安全側の評価を行なうことになります。反対に、B31.1のモデルにおいて、安全率が3.0のライブラリ(AUTOJPIM等)を選択してしまうと、規格の規定より大きな基本許容応力を使用することになり、非安全側の間違った評価になってしまいます。以下は、JIS 材料が登録された主な材料ライブラリです。使用する応力評価コードに合せて適切な材料ライブラリを選択することが大切です。

AUTOPOWJ :発電用火力設備の技術基準の解釈<B31.1コードで使用>
AUTOJISM :圧力容器の構造・一般事項 <B31.1コードで使用>
AUTOJPIM :石油工業用プラントの配管基準 <B31.3コードで使用>
AUTOKHK :特定設備の技術基準の解釈 <KHKコード専用>
AUTOJSME :発電用原子力設備規格 <JSMEコード専用>

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