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アンテナの歴史と未来 寄稿 安達 三郎 氏

第6回:波及

 アンテナの歴史と未来と題したこのコラムは第1回の黎明から始まって、萌芽,探求、展開、開花、と続き第6回:波及では、今日隆盛を極めている"パーソナル無線通信"までたどりついたところである。記述に当たっては出来るだけ客観的にと努めたつもりであるが、所詮私見を入れないで歴史は書けないのではなかろうかと自己弁護しているところである。

 最初は、スロットアンテナ、広帯域アンテナ、進行波アンテナ、フェイズドアレイアンテナ、マイクロストリップアンテナ、小形アンテナ、アダプティブアンテナ、非通信用アンテナなど個々のアンテナの歴史についても述べたいと思っていた。しかし一般読者にとってはやや専門的に過ぎることと、予定の頁数も既に超過してしまったの割愛することとした。

 最後に、アンテナの未来について述べなければならないのであるが、これは至難の業である。 第14章で述べたように、光通信の出現によって電波による無線通信はいずれ廃れてしまうだろうとさえ言われていた当時、どれだけの人が今日の無線によるパーソナル通信の隆盛を予言できただろうかと考えると未来を語る勇気はしぼんでしまう。将来、限られた周波数資源のもとで、可能な限り多くの人々に、しかも高度なサービスを提供するためには、アンテナそのものだけでなくアンテナ周辺技術の融合に頼るところが非常に多い。

 アンテナは時間軸の他にもう1つの軸を持っている。それは空間軸である。もっと端的に言えば指向性を持っていることである。送信アンテナと受信アンテナを結ぶ空間には地形や建造物があって電波干渉が避けられない。指向性を適宜に制御して干渉を最小にするような方式を実現する可能性がある。 送信指向性がわかっていて、複数個の受信アンテナ(例:アレイアンテナ)のそれぞれの受信応答から電波干渉の様子を瞬時に知る事が出来れば(逆散乱の問題と呼ばれる)、受信アンテナまたは送信アンテナの指向性を適応制御することによって干渉の少ない望ましい通信が出来るはずである。アンテナはハードだけでなくコンピュータと情報処理技術を駆使したソフト面の重要性を強調したい。現在そのようなアンテナはスマートアンテナとかソフトウェアアンテナと呼ばれて研究が進められているが、将来の発展を期待したい。

 最後に、夢のような話を一つ。アンテナをどんどん小形にしてもその利得と周波数帯域を一定に保てないか?利得については超伝導を利用して可能であるが、帯域については解決策が見つかっていない。


<編集担当より>

 今回をもって安達先生の連載コラム「アンテナの歴史と未来」を一旦終結することと致します。半年に亘るご愛読有難うございました。
なお安達先生には、新たな構想のもとアンテナ技術の解説を中心とした続編のコラムを機会を見てご執筆頂こうと考えております。引続き弊社のホームページにご注目下さい。



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