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アンテナの歴史と未来 寄稿 安達 三郎 氏

第4回:展開

10. マイクロ波アンテナ

a )アンテナの指向性と指向性利得

 マイクロ波で一般によく用いられる開口アンテナ(詳しくは次項 b )参照)の具体例を紹介する前に、やや専門的になるが開口アンテナの指向性と指向性利得の基本について知ることは大変重要と考えるのでこれについて述べようと思う。

図16:一様な開口の電力指向性の1/2電力ビーム角 図16はアンテナ開口を横から見たときのアンテナ断面の長さ、Lとこの面内の放射指向性の関係を示したものである。開口アンテナの指向性を開口面と垂直な正面方向に出来るだけ鋭くするためには、開口面上の電磁界は同位相であることが望ましい。また、振幅は開口全体を有効に利用するためには開口全面にわたって振幅が一様あるいはそれに近いことが望まれる。 このとき、放射電界の2乗に比例する放射電力密度が正面方向の値の1/2になる2つの方向(破線で示される)を挟む角度 を指向性のビーム幅と定義して指向性の鋭さを表すものとする。マイクロ波アンテナのようにL >>  (  :波長)である場合、この値は簡単な計算からつぎのように求まる。

 

 単位はラヂアンである。すなわち、指向性の鋭さは開口の長さLを波長で割った値に反比例することが分かる。アンテナをレーダアンテナや電波天文アンテナに用いたときの分解能は上記のビーム幅によって決定されることになる。 図16に示したLと指向性パターンを含む面(紙面)に対しこれと直角な面についても同様にビーム幅が定義される。

図17:アンテナの開口面積と指向性利得 アンテナからの放射電力を一定としたとき、立体的ビーム幅が狭くなればなるほど正面方向の放射電力密度は大きくなる。指向性がないとき、つまりすべての方向に一様に放射する仮想的なアンテナに比べて指向性アンテナを用いたときの最大放射電力密度の増大を表す比率をそのアンテナの指向性利得と呼ぶ。 その値は、開口アンテナの実効面積Ae(開口面上の電磁界が同位相で同振幅の場合、開口面の実面積Aに等しい)とすると、次式で与えられる。

 

 実効面積の実面積に対する比、g = Ae /Aをそのアンテナの開口効率という。アンテナの開口面積Aと指向性利得Gd [dB]との関係を図17に示す。

 アンテナの使用目的によっては特殊な指向性が要求されるが、長距離固定通信などでは指向性は出来るだけ鋭く、したがって指向性利得の大きいアンテナが望まれる。 特に静止衛星通信のための地上局送信アンテナやある種の電波天文用受信アンテナなどにおいては微弱な電波を受信しなければならないこと、高い分解能を要求されることから一般に使用波長に比べて極めて大きいアンテナが必要となる。


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