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アンテナの歴史と未来 寄稿 安達 三郎 氏

第1回:黎明

2. ヘルツの実験

 アンテナの歴史はヘルツに始まると言ってよい。ヘルツは彼の師ヘルムホルツの勧めによってアカデミーの懸賞論文であったマクスウェルの実験的検証に挑戦した。

図2:ヘルツの実験装置(1888年) そのころ、ライデン瓶やコンデンサーに蓄えた静電気の火花放電によって電気振動が観察されることは既にわかっていた。そこでヘルツは火花放電電極の端子に誘導コイルからの高電圧をかけた。放電電極からの振動電流を図2に示すように2本の導体棒に導いた。この導体棒はダイポールアンテナの原型であって、金属板からなる放物柱面の焦点の位置に置いた。現在で言う2次元パラボラ反射鏡である。

 このようにして、ダイポールから放射されるであろう電磁波は反射鏡によって前面に強く放射されることが期待される。受信アンテナとしては放電ギヤップを持つループアンテナや送信アンテナと同様なアンテナを用い,ギャップに生ずる火花放電で電磁波の到来を検知することができた。その波長は66cmと観測された。この初めての電磁波の検証実験において、今日アンテナの基本的原型と考えられる上記の3つのアンテナが用いられていたことには驚くほかない。

 送受アンテナ間の距離は2~3mから始まって20mまで伸ばすことができたらしい。ヘルツはこの装置でこの波動が横波であること、直進性、金属板による反射や干渉性、プリズムによる屈折を観測し、金属格子を用いて偏波を確認するなど、巧みな実験によって光と共通する電磁波の基本的な諸性質を明らかにしている。これらはヘルツが23歳から30歳頃までの間に成し遂げた仕事であったのである。



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