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アンテナの歴史と未来 寄稿 安達 三郎 氏

第1回:黎明

1. 電磁気学の確立と電磁波の予言

 17、18世紀はニュートンの万有引力の法則(1666年)に代表される古典力学がほぼ完成された時代であった。また古典的な光学の理解も大いに進んだ。これら2つの物理学分野が最初に発達したことは、どちらも人間の視覚や触覚で直接観察できる対象であったことと関係があったと考えられる。これに対し、古代において摩擦電気で始まった電気学と、羅針盤で始まった磁気学とはそれらの対象が直接人間の感覚に触れにくいために19世紀に入る頃までは大きな進展はなかったといってよい。

 異種の金属の接触によって起こる接触電気を利用したボルタ電池の発明(1800年)により定常電流を得ることができるようになった。これがもとになってエルステッドは、電流が流れるとそれを取り囲むように磁気が生ずることを発見した(1820年)。すなわち,電流の磁気作用である。これによって、電気学と磁気学がここではじめて結びつけられたという意味で非常に重要である。

 次の大きな発見はファラデーの電磁誘導であった。すなわち、磁気が時間的に変化するとき,それを取り囲むように起電力すなわち電界が誘起されることを発見した(1831年)。

 3つめの発見,と言うよりはこれは仮定ないし主張と言うべきもので、それはマクスウェル(写真1)の変位電流である。すなわち,電気変位(電束密度)の時間的変化は通常の電荷の流れである電流と等価とみなすべきであると主張した。これは、時間的に変化する電束の周りにはそれを取り囲むように磁界が誘起されることを意味する。これによって,電気と磁気は自己矛盾なく完全に閉じたものとなり,その結果としてすべての電磁現象が理論的に説明できるとした。これがマクスウェルの電磁場理論である(1864年)。マクスウェルがこのように考えるに至ったのには、ファラデーの場の考えが大きく影響したと考えられている。

 マクスウェルは同時にまた、彼の電磁場理論に基づいて真空中を電界と磁界が対になって波として伝搬することを見出した。電界の時間変化は磁界を生み,磁界の時間変化は電界を生むというふうに横波の電磁波が存在することを予言した。

 電磁波の伝搬速度を計算したところ,それまで既に測定によって知られていた光の速度にほぼ一致したことからマクスウェルは、光は電磁波であるという、いわゆる光の電磁波説を唱えた。この説は当時なかなか一般に認めてもらえなかった。これがヘルツ(写真2)によって完全に実証(1888年)されたのは彼の死後10年も経ってからだった。(図1)

写真1 J.C.マクスウェル (1831-1879年)

写真2 H.R.ヘルツ (1857-1894年)

図1:アンテナからの電波放射


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