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CIM導入ガイドラインに対する取組み紹介

古川敬 様

お話を伺った方

株式会社大林組 土木本部
本部長室 情報技術推進課長
杉浦 伸哉 様

株式会社大林組の概要

1892(明治25)年の創業以来、優れた技術力と誠意ある仕事で建設サービスを提供し続けています。国内外の建設工事、地域開発・都市開発・その他建設に関する事業、及びこれらに関するエンジニアリング・マネージメント・コンサルティング業務の受託、不動産事業を行っています。現在、2017年度を初年度とする5ヵ年計画「大林組グループ中期経営計画」を策定し、事業環境の変化を成長の機会と捉えて事業を推進しています。

2017年3月31日、国土交通省は2017年度の「i-Construction(建設現場の生産性向上策)」におけるICT技術の活用に向けて「CIM導入ガイドライン(案)」を公表しました。CIMの考え方やCIMモデル作成の指針・活用方法等、CIMへの取り組みを進めるにあたっての最低限のルールが定められています。
株式会社大林組は、2012年から先行してCIMに取り組んでこられました。CTCのCIM対応ソフトウェア「CIM-LINK」「Navis+」「GEORAMA for Civil 3D」を利用して、最先端のCIM活用を具現化されています。
土木本部 本部長室 情報技術推進課長の杉浦 伸哉様に、CIMへの取り組みと今後についてお伺いしました。
* CIM(Construction Information Modeling/Management)

大林組のCIMへの取り組みは2012年にスタート

当社の建設事業には、建築事業、土木事業、不動産事業の3本柱がありますが、それら全てに関わるマネージメントのノウハウはゼネコンとしての大切な財産です。そうした知的マネージメント能力を建設に特化せず、もう1本の柱・新規ビジネス領域として育て、4本柱とすることを目指しています。今、大型工事を含めて、精緻な建設事業管理を行っていこうとするとICTは欠かせません。こうした技術への建設会社ならではの取り組みは積極的に行っていきます。
2009年からBIMが建設業界でスタートしました。BIMは日本では建物を中心に、PC/コンピュータの世界で1分の1のバーチャルな世界を作り出し、それに紐づく属性情報を上手に使って、設計・施工や建物の長寿命化に役立てようというものです。当社の建築事業でも2009年から積極的に始めています。
一方、土木分野のBIMは日本ではCIMと言います。土木・インフラ工事の分野でもBIMが使えるのではないかと考え、2012年に取り組み始めたのですが、時を同じくして国土交通省も土木分野で3次元モデリングを進めていくということになりました。今では建築ではBIMのツールを設計・施工で上手に使いながら仕事を進め、土木でもCIMのツールを施工管理、もしくは施工の段取り、打合せのために使っています。

大林組の各工種CIM事例

大林組の各工種CIM事例
提供元:株式会社大林組 土木本部本部長室情報技術推進課

近畿自動車道紀勢線見草トンネルでCIMの成果を納品

トンネル工事の最初から最後まで、CIMに取り組んだ成果を発注者側に納品したのは、当社が日本初ではないでしょうか。近畿自動車道紀勢線見草トンネルの工事では、将来の維持管理での活用も見越して、3次元情報や様々な属性を加えた施工データをまとめ、国土交通省へ納品しました。約2.4kmのトンネルで、3次元に取り組まなくても施工はできたのですが、ちょうど2012年からCIMを始めたところで、新しいツールを取り入れることで何が変わるか試してみようということになりました。現場の工事事務所の所長が先進的に取り組んでくれて、3年かけて2015年に納品しました。
これまでは2次元の図面や写真を完成図書として渡してきました。ここに3次元データがプラスされることで、地形だけでなく地層の情報量も増えます。トンネルは掘削時の土の状態を残すのが非常に重要です。大きな変位やトラブルがあった時に、元の岩や土の状態を知るためには、従来は写真を連続して見ていく必要がありました。写真はトンネルの入り口から1mおきに番号が振ってあり、番号と平面図を合わせて見ていきます。もちろんそれでも分かるのですが、CIMでは連続した切羽写真を使用し、3次元地層モデルを推定することが可能で、3次元トンネル形状と切羽写真と3次元地層モデルを重ねて見ることができます。発注者側には、共用されたトンネルを使い続けていく時の基礎情報となり、分かりやすいと喜んでいただきました。
こうした取り組みを何回か行う中で、ベースとなるルールがあればまとめやすいし、説明もしやすい、発注者側も施工会社から色々な形でデータを渡されても困るという話になり、ガイドラインを作った方が良いということになりました。一昨年から業界団体で検討した結果、2017年3月末に「CIM導入ガイドライン(案)」が発行されました。そうした大きな流れのきっかけを作ったのが見草トンネルの案件だと考えています。

大林組の見草トンネルCIMデータイメージ

大林組の見草トンネルCIMデータイメージ
提供元:株式会社大林組 土木本部本部長室情報技術推進課

CIM導入のメリット

我々はトンネルでも、橋梁でも、躯体構造物でも2次元の平面・断面・立面で仕事をしています。コンクリートの型枠を作り、鉄筋を組み、コンクリートを流し込むという作業は我々自身が行うのではありません。協力会社と一緒にモノを作っていきます。その時に図面を見ながら最終形はこうなります、段取りはこれでお願いしますと説明できるコミュニケーション能力がゼネコンの職員には一番必要とされます。
これまでは2次元の図面、紙で説明していました。例えば職員が5、6人いて、協力会社が10社、20社もあるという時、全員が同じ品質で説明できるかというとなかなか難しい。しかし2次元の平面図に3次元のモデルを組み合わせて説明すると、我々の理解も一定以上の品質が保てるし、それを伝達する時も情報量が変わりません。施工の段取りをしたのに、一部イメージと違ったからもう1回型枠を作り直すというような余計な手間が省けます。3次元は形状だけでも十分な力を持っているのです。
実際に経験して効果があったと感じると、他の現場でも使いたいということになります。3次元を用いたコミュニケーション能力が職員一人ひとりについていくことで、全体の施工に対するマネージメント力、段取りの力が上がっていきます。それは、会社全体の技術力の底上げにつながります。
見草トンネルでは施工の計測記録を3次元の中に落とし込んでいきました。エクセルのグラフで点ごとの数値を見ていたところを、3次元のトンネルにベクトル表示や色表示をして、局所的ではなく俯瞰的に見ることができるようになりました。現場の所長が、山全体の地形と地層が見られることが一番良かったと言っていました。巨大なインフラ構造物全体を俯瞰して見ることができ、何か起こった時に原因究明のため様々なことを深く検討できるようになりました。
建設業界では技能労働者だけでなく我々のような技術職員も高齢化しています。ベテランの所長や職員から若い人に情報を引き継いでいかなければなりません。その時に言葉だけで教えるより、3次元を見せながら話をすることで、高い教育効果が期待できます。3次元は単なる形状だけでも十分役立つし、形状に属性を当てはめて構造物全体の傾向を見て次の判断をどうするか、判断力を鍛えるためにも重要なツールです。

GEORAMAで作成した山全体の地形・地層モデル例

GEORAMAで作成した山全体の地形・地層モデル例
提供元:株式会社大林組 土木本部本部長室情報技術推進課

CIMツールをどう使いこなすかが重要

土木は、勘と経験と度胸とよく言われます。それも重要な要素とは思いますが、そこに科学的な分析も必要です。これまで高度な分析ツールは数多くありましたが、現場がすぐ使える、視覚化できる、高度ではないけれど判断の拠りどころにできるというツールとしてCIMはポイントが高いと思います。
よく言うのですが、CIMも含めてICTは土木技術ではなく見せる技術であり、ここに建設会社同士の技術力の差はありません。CIMをやっているから土木技術力があると言ったら大間違い。あくまでもICTツールを使っているだけ。ツールをどう使いこなすかというマネージメント力が問われているのです。
実はCIMは全ての現場で使ってはいません。効果の上がるところ、絶対に必要なところ、事前に確認して非常に良い効果が生まれると想定されるところから使っていきます。この判断は、基本は現場が考えるのですが、我々の部署にも相談がきます。現場はモノを作る、計画を考えるのがメイン。サポートツールとしてICTを使いたいのにそれを一所懸命覚えなければならないというのでは本末転倒です。そのためのバックエンドを我々の部署が担っています。
例えば3次元モデルを扱うためにはCADを覚えなくてはいけない。しかし現場の人はCADを操作するのが目的ではない。CADで作ったものをどう使うかという方向に行きたい。そうするとCADのViewerでよいではないかとなります。
実はViewerとして見るだけなら色々なツールがあります。しかし、計測データや位置情報データが3次元モデルに自動的に組み合わされ、それを見ながら次の施工の検討をしたいという時はViewerだけでは不可能ですし、データを取り込むとか3次元モデルに属性を自動的に当てはめることは通常のCADではできません。そこにCTCの3D属性管理ソフトウェアNavis+がぴったり合って、今それを多用しています。
また、現場は、北は北海道から南は沖縄、海外にもあります。現場で3次元モデルを使った確認をする際に電話やメールでのやり取りももちろん可能ですが、モデルが細かいとどこの部分を言っているか分からない。そういう時に困っていたので、3次元モデル情報共有クラウドサービスCIM-LINKを使い、ブラウザで3次元モデルを共有して会話したところ、非常にわかりやすかった。こうした見える、共有するツールが大変便利で大いに使っています。また、メールだと1つのことに対する答えが逸散しがちですが、CIM-LINKのような情報共有ツールはスレッドに対してどのような対話が行われたか履歴を残すことができるため、土木の現場の重要なインフラとなりました。そこに更に3次元のインフラがうまく乗る状況になっています。
繰り返しになりますが、ツールをうまく使って仕事をしていくというのが一番重要なポイントです。ICTは単なるツールのはずなのに、ハードルがあって越えられないというケースはまだまだあります。そこで我々のような部署が現場と一緒になって話をすると、様々なアイデアが出てきます。我々のような本社の技術職員が、現場とは別の視点で便利な使い方を提案できることもあります。現場と本社の両輪をうまく回すのがICTを使っていくポイントだと思います。

Navis+を利用した属性管理事例

Navis+を利用した属性管理事例
提供元:株式会社大林組 土木本部本部長室情報技術推進課

CIM-LINKを利用した情報共有事例

CIM-LINKを利用した情報共有事例
提供元:株式会社大林組 土木本部本部長室情報技術推進課

CTCのツールに期待

今後、CTCのツールには大いに期待しています。現場で3次元形状を見たい、属性も付け加えたい、でもCADは使えないからViewerだけでいいという時に、そういうツールは実はNavis+しかないのです。
また現場のニーズに合わせたツールの使い方を検討する時に、CTCは一緒に対応してくれます。新しいテクノロジーを組み込んだツールに独自の色付けをしたい、使い方を変えたらもっと使えるかもしれないというところを我々とCTCが一緒になって考える。押しつけではなく現場の強いニーズがあり、その中でこのツールを使えばできるかもしれないと現場と一体になって動いてくれる、そういう意味でCTCはフットワークが軽くて助かっています。
最近のICT建機は自己位置を何秒おきかにデータとして取ることができます。自動的にクラウドに上がったこれらのデータとCTCのツール(C-土工)を利用すれば、ワンクリックで3次元の出来形形状として作成することができます。職員はワンクリックで土が盛られた状態を見ることができるのです。こうした仕組みを、大規模な開発をすることなく、既存のツールの組合せで実現できないかと工夫するのが我々の仕事です。
もう1つ、ツールを使って3次元データを施工管理で扱っていく時には、会社を越えて皆で幅広く使ってもらうとよりメリットが出てきます。ツールは広めるとインフラになります。土木は1社だけで仕事をすることはあまりありません。最終的にJVの企業が皆で使えるツールが一番良い、そういうツールをぜひCTCが提供して広めて欲しいと思います。
こういうNavis+、CIM-LINKのようなツールが、日本だけでなく世界でも使うことができる環境にして欲しい。当社は海外工事も行っていますが、海外では3次元はまだ形状だけ。日本では計測データをすぐ取り入れられるよと教えると海外の技術者はびっくりします。海外でこそNavis+を上手に使うと仕事の効率を更に上げられるのではないかと思います。
CTCは計算や解析のソフトウェアを数多く扱っていますが、大規模工事になればなるほど解析の技術は重要になります。解析や技術のツールと施工のツールをシームレスに結ぶような取り組みをぜひ行ってもらいたい。解析、設計から施工までの情報をボーダレス、シームレスにつなげていくようなツールをCTCが作ってくれると、我々もハッピーだし、CTCもハッピーになれると思います。

大林組とCTCで米国オートデスク主催「2017 AEC Excellence Awards」Construction部門 3位入賞

大林組とCTCで米国オートデスク主催「2017 AEC Excellence Awards」Construction部門 3位入賞

出典元

Autodesk Webサイト Showcase book

インタビューを終えて

杉浦様には今回のインタビューを通して大林組のCIMの取組みについて適用事例を含めてご紹介頂きました。現場視点での問題解決方法や工夫など非常に興味深く、分かりやすいお話には、多くを学ばせて頂きました。この場を借りてお礼申し上げます。また貴社とは古くよりお付合い頂いており、弊社は、CIM分野の黎明期である2012年頃より多くのご指南を頂きながら、CIM普及に邁進してまいりました。これからも日本国内のみならず海外市場に於いてもCIMを含めたビジネスをともに広めていく事ができれば幸いと考えております。

Navis+についてはこちらから
http://www.engineering-eye.com/NAVISPLUS/index.html
GEORAMA for Civil3Dについてはこちらから
http://www.engineering-eye.com/GEORAMA_CIVIL3D/index.html