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株式会社ANET 様(鉄道総研グループ)大きな揺れが来る前に地震情報を素早く的確に知らせ
安心・安全な社会の継続を図る 緊急地震速報配信サービス

お話を伺った方

芦谷公稔 様(工学博士)株式会社ANET 取締役
芦谷公稔 様(工学博士)

株式会社ANETは、新幹線の早期地震防災システムの開発や緊急地震速報に関して気象庁と共同研究を行ってきた財団法人鉄道総合技術研究所(以下、鉄道総研)のグループ会社として、公的機関が発信する防災情報を鉄道等事業者へ配信し、活用いただくことを目的に2005年10月に設立された。
特に、気象庁が2006年から本格的に緊急地震速報を配信することを踏まえ前年から準備を進め、同年8月の本格スタートと同時に、首都圏の大手私鉄2社への配信サービスを開始した。
現在では、首都圏のほぼすべての鉄道会社をはじめ、東北、中部、関西圏の鉄道会社、さらには駅ビル等の大型商業施設、病院、工場、事務所、建設現場などさまざまな分野にサービスを提供、安心・安全な社会づくりの一翼を担っている。

芦谷公稔氏には2003年4月に訪問インタビューにご登場いただいています。当時は、鉄道総研地震防災研究室長として、気象庁と共同で「将来型早期地震警報システムの開発」に取り組んでおられ、その研究内容や将来展望をお話しいただきました。
それから約7年の月日が経ち、その研究は「緊急地震速報配信サービス」として実を結び、ビジネスとして展開されています。今回は、ANETの取締役として同サービスについてお伺いしました。

新幹線の早期地震防災システムをベースに
気象庁と共同で緊急地震速報を開発

大きな揺れが来る前に地震情報を素早く的確に知らせ 安心・安全な社会の継続を図る 緊急地震速報配信サービス

鉄道総研は、機械、電気、土木、防災など鉄道に関連するさまざまな分野の研究開発を行っています。これらの研究開発は民間企業とパートナーを組んで行っているものが数多くあります。地震防災もその1つで、私が鉄道総研地震防災研究室長になった2000年から地震防災のための鉄道構造物のデータベース構築や地震時の被害推定システムの開発をCTCと共同で行うとともに、早期警報システムのアルゴリズムの開発を行ってきました。
鉄道総研は、1990年代に新幹線向けに沿線での早期地震検知・警報システム「ユレダス」を開発し、JRで実用化されました。気象庁は1995年の阪神淡路大震災を機に、地震による被害を減らすために、国の地震観測網を使って早期地震警報を民間事業者へ広く配信できるシステムの開発を急いでいました。そこで鉄道総研と気象庁が共同で鉄道における早期地震警報の技術を踏まえ、より機能アップした緊急地震速報配信システムを開発することになりました。

P波とS波の時間差を利用して、
大きな揺れが来る前に警告を発する

緊急地震速報は、気象庁の約200の観測点と独立行政法人防災科学技術研究所の約800の観測点、併せて全国約1,000の観測点による観測をもとに、気象庁が地震検知後瞬時に震源地の緯度、経度、震源の深さ、地震の規模(マグニチュード)といった情報と、地盤増幅度(揺れ易さ)をもとに全国の予測地点での予測震度、到達予測時間を解析し、(財)気象業務支援センターを通して配信するものです。
これは地震発生直後に起こる初期微動(P波)と、伝播速度は遅いものの大きな揺れを伴う主要動(S波)の時間差を利用して、大きな揺れが到達する前に地震情報を伝達することで、地震による被害を最小限に抑えることを目的としています。
緊急地震速報は、配信の基準によって「予報」と「警報」の2種類に大別されます。「予報」は、予想されるマグニチュードが3.5以上もしくは最大震度が3以上の場合に配信され、地震波が1点の観測点のみでしか観測されない場合でも配信されます。「警報」は、地震波が2点以上の観測点で観測され、予想される最大震度が5弱以上の場合に配信されます。我々がテレビやラジオ等を通じて知る緊急地震速報は、震度5弱以上と予想される「警報」で、これを「一般向け緊急地震速報」と呼んでいます。
一般向け緊急地震速報は、社会的混乱を避けるために、確実に激しい揺れが発生すると予想された時点で発表されるため、発表が遅れることがあります。また、小さな揺れでは発表されません。しかし、事業者によっては地震の規模、予想される揺れが小さくても、地震情報が必要なケースがあります。そこで「予報」をもとに配信されるのが「高度利用者向け緊急地震速報」です。そうした高度利用事業者向けの緊急地震速報配信システムをいち早く構築し、サービスを開始したのがANETです。

大きな揺れが来る前に地震情報を素早く的確に知らせ 安心・安全な社会の継続を図る 緊急地震速報配信サービス緊急地震速報の仕組み

民間の事業者へ向けた
緊急地震速報の配信システムを開発

鉄道総研では、気象庁による緊急地震速報の試験配信が2004年3月に始まることを受けて、緊急地震速報を受信するためのシステムを開発することになりましたが、外部の一般事業者への情報伝達の経験がありませんでした。そこで地震防災システムで共同開発経験のあるCTCに緊急地震速報を受信し鉄道の被害推定をするためのシステム構築を委託しました。
高度利用事業者向け緊急地震速報の情報の流れは、観測された地震情報が気象業務支援センターを介して配信サービス会社へ送られ、そこからエンドユーザーである各事業者へ再配信されるという仕組みです。地震という緊急度の高い情報を扱うことから、地震発生後、きわめて速い時間内にエンドユーザーに情報を配信する必要があるとともに、24時間365日円滑に運用する必要があります。
CTCは、情報システムの構築で豊富な経験を有するのみならず、大規模災害にも耐えられる堅固なデータセンターも有しており、本サービスを運用する上でベストパートナーでした。
2004年4月にはプロトタイプが完成し試験運用を開始しました。この頃、首都圏の鉄道事業者から緊急地震速報の配信を受けたいという要望が寄せられ、配信サービスを提供する事業会社として、2005年10月、鉄道総研グループ各社ならびにCTCを含めた数社の出資により(株)ANETが設立されました。緊急地震速報配信サービスのためのシステム開発も鉄道総研からANETが引き継ぎ、CTCとの協業で一般企業向けの受信システムを開発、2006年8月の気象庁による緊急地震速報のスタートと同時に事業者向け配信サービスがスタートしました。

堅固なデータセンターと2重化されたネットワーク&サーバで
高いセキュリティを実現

ANETの緊急地震速報配信サービスは、鉄道総研が開発した新幹線向けの早期地震警報システム等のノウハウを引き継いでいること、緊急地震速報システムを気象庁と共同で開発した開発主体であるということが大きな特徴です。
緊急地震速報配信サービスは、その性格上一度始めたら止まることが許されない高い事業継続性とセキュリティレベルが求められます。このため配信センターをCTCの堅固なデータセンター内に設置し、気象業務支援センターと配信センターは2本の独立した回線で結ぶとともに、センターの受信サーバ、配信サーバを2重化し、専用線、IP/VPN、インターネットを介してお客様の受信システムに配信しています。同時に、配信センターでは、24時間365日お客様の受信装置の死活を監視、障害発生時には素早くリカバリーする体制を整えています。

大きな揺れが来る前に地震情報を素早く的確に知らせ 安心・安全な社会の継続を図る 緊急地震速報配信サービスデータセンター

お客様のニーズに応じた
受信システムの選択とカスタマイズが可能

ANETの緊急地震速報配信サービスの受信システムは、大きく2つに分けられます。
1つは、お客様の予測計算地点が1ヵ所の場合です。この場合、配信センターの「ANETアラートシステム」が、お客様が登録した地点の予測震度、予測到達(余裕)時間を瞬時に計算し、お客様との間であらかじめ設定した震度を超えると予測された場合にお客様側の緊急地震速報端末に予測結果を配信、端末が音声と光で警報を発するとともに、接点信号を発信して館内一斉放送やエレベータなどの自動制御を行います。
もう1つは、鉄道のように必要とする予測地点が長大もしくは何ヵ所にも分散したお客様向けの配信サービスです。これはお客様側のサーバに計算・再配信機能を付加し、お客様側のサーバで登録拠点の予測震度と予測到達時間を瞬時に計算、また必要に応じて社内LANを介して各拠点へ再配信するというものです。お客様のサーバが緊急地震速報を受信すると、管理用パソコンには各地の震度予測と地震の到達予定時間が表示されるとともに、一斉に警報を発令する、もしくは全国の登録地点(事務所など)に設置された緊急地震速報端末に地震情報が再発信され、各端末ごとに警報を発するという仕組みです。
このようにお客様のニーズに最適なシステムを構築し、提供できるのもANETの緊急地震速報配信サービスの特徴です。

大きな揺れが来る前に地震情報を素早く的確に知らせ 安心・安全な社会の継続を図る 緊急地震速報配信サービス緊急地震速報受信システム システム構成例(複数拠点再配信)
大きな揺れが来る前に地震情報を素早く的確に知らせ 安心・安全な社会の継続を図る 緊急地震速報配信サービス管理用パソコン(Webブラウザ)
大きな揺れが来る前に地震情報を素早く的確に知らせ 安心・安全な社会の継続を図る 緊急地震速報配信サービス管理用パソコン(専用受信ソフト)

緊急地震速報はすべて配信し、必要な情報を
お客様サイドの運用規定に従いコントロール

緊急地震速報は、2009年は月平均約42回の発信がありました。ANETでは小規模な地震でも緊急地震速報はすべて配信しています。それは地震による対応がお客様によってマチマチだからです。
例えば、鉄道は路線によって地形や地盤が異なり、鉄道構造物の耐震強度も異なることから、地震への対応は各社それぞれ基準を定めています。路線によっては地震が発生しても、危険区域を素早く通り抜けてから停車すると定められている場合もあります。このため鉄道会社ではANETからの地震情報をもとに運転指令室から無線で運転士に知らせ、運転士は運行規定に従って列車を制御する方式が取られています。
一方、新幹線は独自に開発した早期地震警報システムにより、沿線で一定規模以上の地震が発生した場合、走行中の列車を自動制御する仕組みになっていますが、JRの在来線は新幹線のシステムをそのままは採用できないため、ANETの緊急地震速報配信サービスを利用するケースが増えています。
ANETの緊急地震速報配信サービスは、当初、鉄道事業者を対象として開発されましたが、今ではさまざまな業種で採用いただいています。例えば、ゼネコンは全国各地でさまざまな建築構造物を建設していますが、工事中に大規模地震が発生したら工事現場は大変危険な状況になります。ANETではこうしたお客様向けにお客様の受信装置から現場事務所に瞬時に地震情報を伝達し、さらに建設現場の作業員へトランシーバや回転灯など音声、視覚で危険を知らせるというようなカスタマイズも行っています。

緊急地震速報に気象情報をプラスした
「EQ+」サービスを開始

ANETの緊急地震速報配信サービスは、お客様のニーズを十分に汲み取りながら開発してきました。このため必要と思われるメニューも充実し、すでに完成度の高いシステムとなっています。今後はさらに使い勝手を良くし、コストダウンを図ることでより広範なお客様にご利用いただけるよう努めたいと思っています。しかし、お客様に鉄道事業者が多いことから高いセキュリティレベルを維持する必要があるので、そこをどうするかが1つの課題です。
一方、ANETの配信システムのさらなる有効活用を考えています。それはANETの配信システムを利用した気象情報の配信です。幸い、ANETもCTCも気象庁予報配信許可事業者であり、CTCは局地気象評価予測モデル「LOCALS」の開発や気象情報サービス「WEATHER EYE」を提供するなど、気象に関しても高度なノウハウ、技術を有しています。これらの技術を活用し、緊急地震速報にプラスして「大雨」「暴風」「雷」などの気象情報も配信する緊急地震速報・気象情報配信サービス「EQ+」(イーキュープラス)を開発、サービスを開始しました。「EQ+」は、緊急地震速報配信サービスのネットワーク、システムを活用できるため、低コストで利用いただけるというメリットがあります。
近年、局所的な豪雨や突然の暴風雨に襲われる機会が増えてきました。地震だけでなく気象情報もプラスした「EQ+」は、より安心・安全な社会づくりの一助になるものと期待しています。

大きな揺れが来る前に地震情報を素早く的確に知らせ 安心・安全な社会の継続を図る 緊急地震速報配信サービス EQ+専用サイト

緊急地震速報配信サービスは
BCPの面からも極めて重要

ANETの緊急地震速報配信サービスは、JRを含めた鉄道事業者30社をはじめ、大型商業施設、ゼネコン、病院、工場など多数の事業者でご利用いただいています。また、昨年度は東京都の都立高校の全てが導入、今年度は東京にある学校法人すべてに導入される予定です。学校への導入は地震による災害から身を守るだけでなく、地震防災教育にもつながるものです。将来的には、そうした中から地震防災に関心を持つ人が増え、この分野の人材育成にも役立つものと期待しています。
日本には、原子力施設、化学プラント、港湾施設など、地震による大きな揺れが来る前に機器を制御したり作業を中断することで、安全性を高められる施設は多々あります。ANETはこうした事業者への緊急地震速報配信サービスの導入促進を図っていきたいと考えています。また、緊急地震速報配信サービスは日本独自のもので、海外でこのようなサービスを行っているところは見当たりません。そうした中で、アメリカのカリフォルニア州や台湾など日本と同様に地震が頻発する地域・国から高い関心が寄せられており、将来的には日本の緊急地震速報配信サービスの技術・ノウハウを輸出することも夢ではありません。
しかしながら、緊急地震速報は導入する企業にとって直接的には売上に結び付かないことが、防災ビジネスを展開する上でのネックとなっています。地震、台風、集中豪雨などによる自然災害が多発する日本にあって、そうした災害を未然に防ぎ、安心・安全な社会をつくることは事業者にとって社会的使命と言えます。同時に、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、事前に有効な手段を講じておくことはBCP(Business Continuity Planning=事業継続性)の面からも極めて重要です。
ANETはこれからも高い技術力があり、システム開発から運用まで安心してお任せできるCTCとアライアンスを組み、「受信システムの構築」「システム運営」「配信サービス」の3つの柱に「コンサルティング機能」を付加して、お客様の多様なニーズにお応えし、安心・安全をお届けしてまいりたいと思っています。

※緊急地震速報から震度と到達時間を予測し提供する場合は、予報業務に該当するため気象庁の許可が必要です。ANET、CTC共に気象庁予報業務許可事業者です。

インタビューを終えて │ 後 記 │Editor's notes
芦谷さん、インタビューありがとうございました。
芦谷さんとは、鉄道構造物の地震被害推定のシステムに関わらせていただいて以来、10年程のお付き合いとなります。鉄道総研の地震防災室長としてよりも、むしろ、今回のインタビューでご紹介した株式会社ANETの設立へ向けてご尽力された姿の方が印象的です。
研究を研究で終わらせず、その成果を社会へ責任を持って提供していく、その姿勢に共感し、当社としても何とか協力をさせていただきたく現在の協業体制を築きました。本当に色々とお世話になっており、ありがとうございます。
また、本年はそのご研究の成果で紫綬褒章を受章されました。誠におめでとうございます。我々にとりましても、一緒に業務をさせていただく上でたいへん嬉しく思っております。今後ともなにとぞよろしくお願いいたします。
(聞き手:CTC大野)

名称 株式会社ANET
本社 〒101-0041
東京都千代田区神田須田町二丁目23番地 SSビル4階
電話:03-6866-7080
ファックス:03-6866-7090
国立事業所 〒185-0034
東京都国分寺市光町2-8-38 (財)鉄道総合技術研究所内
電話:042-574-5722
ファックス:042-574-5723
代表者 大島洋志(理学博士)
設立 2005年10月3日
資本金 1,000万円
株主 (株)ジェイアール総研エンジニアリング、(株)ジェイアール総研情報システム、(株)ジェイアール総研電気システム、(株)テス、三菱スペース・ソフトウエア(株)、JFEシステムズ(株)、伊藤忠テクノソリューションズ(株)、(株)エヌアイティーエルオー、明星電機(株)
事業内容
  • 防災に関わる情報の調査、研究、配信、活用支援
  • 防災に関わる機器及びシステムの設計、製作、販売、管理、保守
  • 情報通信に関わる機器及びシステムの設計、製作、販売、管理、保守事業
  • 鉄道等の環境に係わる調査、解析、評価並びにこれらのコンサルティング事業
  • (財)鉄道総合技術研究所が開発、または共同開発したツールおよびシステムの製作、販売
  • 防災技術その他新技術に関する教育、訓練、普及並びにこれらのコンサルティング事業
  • その他
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