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セイコープレシジョン株式会社 様アクティブタグで安心・安全な社会の構築をサポート
「MAGNA/TDM」でアンテナ設計をシミュレーション

お話を伺った方

セイコープレシジョン株式会社 セイコープレシジョン株式会社
研究開発部 商品開発課
副主事 杉野 光一 様


「SEIKO」ブランドで世界に知られるセイコーグループは、現在、セイコーホールディングス株式会社の下に、セイコーウオッチ株式会社、セイコークロック株式会社、セイコープレシジョン株式会社等9社から構成されている。1881年に創業した服部時計店を前身とする同グループは、時計という精密加工技術をベースに電子・光学技術を融合、常に時代の先端を行く製品づくりで社会に貢献している。セイコープレシジョンは1996年に創立、長年にわたる精密加工技術と電子・光学技術のノウハウを活かし、ユビキタス社会に欠かせない各種キーデバイス、キーパーツ、キーソリューションの提供を通じて社会のニーズに応えている。

近年、小学生などの児童が登下校中に事故や犯罪に巻き込まれるケースがしばしば発生しています。たとえ子供が事故や犯罪にあわなくても帰宅が遅れると親は心配になります。こうした子供の安全と親の安心のためにいま注目されているのが、アクティブタグなど電子タグを活用した「児童見守りシステム」です。これは総務省の「ユビキタスセンサーネットワーク技術に関する研究開発」の一環として推進されているもので、すでに一部の地域でモデル事業や実証実験も行われています。
セイコープレシジョンは、人やものなどの物体の識別に利用される無線タグ(アクティブ・タグ)を使い、時間と場所などの空間情報を把握することで人やものが、いつ、どこにあるかを知るためのワイヤレスソリューションを提供しています。
今回は、CTCが開発・販売する電磁波解析用ソフトウェア「MAGNA/TDM」を使ってアクティブタグに使われるアンテナを開発した同社研究開発部商品開発課の杉野光一様に、アクティブタグと児童見守りシステムについて伺いました。

精密機械技術と光学・電子技術を融合し
多彩なビジネスを展開

セイコープレシジョンの事業は、大きく電子デバイス事業とソリューション事業に分けられます。電子デバイス事業にはカメラのシャッターや小型モーター等のオプトメカトロニクス事業、クロックムーブメントや水晶発振器、プラスチック精密金型・部品等のコンポーネント事業、精密製品の受託開発と製造等受託ビジネス、自動化・省力化のための各種機器の開発・製造を行うエンジニアリング事業があります。ソリューション事業には、情報ネットワークシステムに関するシステムインテグレーション事業、ドットマトリックスプリンタ、タイムレコーダー等のビジネス機器事業、電子タグや特定小電力無線モジュール等のワイヤレス事業、ハードウェア保守やネットワークインフラ構築等のサービス事業があります。
電子デバイス事業では、一眼レフカメラやコンパクトカメラのシャッター等精密機器で培った技術を活かし、今も一部のデジタルカメラのシャッターを手掛けるとともに、最近まで携帯電話のカメラのモジュール等を製造、当社のメインビジネスでした。ビジネス機器分野では、以前から取り組んできたドットマトリックスプリンタを応用して、樹脂や金属の表面に刻印する技術を開発しました。1つ1つの製品にシリアルナンバーを刻印したり、二次元コードをインクを使わずに印字できるという特徴があります。
SEIKOというと時計を思い浮かべる方が多いと思いますが、コンシューマ向け時計はグループ会社のセイコークロックが製造しており、当社では設備時計を作っています。設備時計とはタンスくらいの大型の時計で、放送局やビルの親時計として使われているもので、正確な時刻を表示し、ビルなどではネットワークを介して各部屋の時計に時刻が配信されています。また、時計分野では発振器などのムーブメントを手掛け、グループ会社へ供給しています。
今、当社で最も注力しているビジネスはシステムインテグレーション(SI)で、お客様のご要望に応じてさまざまなサービスを提供しています。その際、自社製品を組み込むこともあれば、他社製品のみで構成することもありますが、SIビジネスの増加に伴い、保守サービスも増えてきているのが現状です。

パッシブタグとアクティブタグを
用途に応じて使い分け

当社のビジネスの柱の1つにワイヤレス事業があります。今、電波時計はさらなる進化を遂げ"タイムリンク"として結実しました。これを支えているのが当社の無線技術です。この無線技術を活かして開発したのが電子タグの1つである950MHz帯のアクティブタグです。
電子タグにはパッシブタグとアクティブタグがあります。
パッシブタグは、タグ自体は電池を持たず、親機(リーダ)からの電波を電源として、反射波を返す際に変調をかけて自分のIDなどのデータを送るという仕組みです。パッシブタグは1つの半導体とアンテナだけで構成できるため薄く、小さなカードやシートに収めることができ、価格も安価にできるという特徴があります。また、使用されている周波数帯は無線LANと同じ2.4GHzで、リーダから1m程度の距離まで通信できます。今日、広く用いられている「Suica」や「Pasmo」も広い意味ではパッシブタグに含まれますが、「Suica」や「Pasmo」は13.56MHz帯の周波数を使っており、"タッチ&ゴー"と言われているように、リーダに接触するくらい近づける必要があります。
今日、オフィスなどのセキュリティが厳しくなっており社員がカード型の電子タグを付けている光景を目にすることがあります。首からぶら下げているだけでリーダにタッチしないでもドアが開くものはパッシブタグで、入退室管理への利用が広がりつつあります。また、シート状のパッシブタグは、制服などの着衣に付けることもよく行われています。アンテナを縫い込んだ制服はクリーニングも可能なため、何回クリーニングしたら新しい制服と交換するなどといった管理にも使われています。さらに、回転ずしの皿にタグを取り付けて料金を即座に計算するということにも用いられています。このようにパッシブタグは今や我々の身の回りで広く使われています。
一方、アクティブタグはタグ自体に電池を持つものを言います。電池を持っているためにタグ側から送信できるという特徴があり、受信機能を持たせることも可能です。パッシブタグでは多くのタグが周辺にあると、同時に反応してしまい電波が衝突してきちんと受信できないことがあり、そのためにタグごとに周波数を少しずらすなどの工夫が必要です。しかし、アクティブタグは電池とCPUを備え無線機能を有するため、タグ側で1秒に1回とか1時間に1回など任意に送信時間を設定することで、電波が衝突する確率を低くすることが可能です。また、タグに受信機能を持たせれば、リーダが受信した際に「確かに受信しました」という返事をタグに返信できます。逆にリーダの方から「近くに誰かいますか?」という問いかけをタグにすることも可能です。
アクティブタグには、さまざまな機能を付加することも可能です。例えば、温度センサーを取り付ければ、スーパーマーケットなどの冷蔵ケースの温度管理が遠隔で行えます。現在、多くのお店では従業員がケースまで行って温度確認をしていますが、アクティブタグに温度センサーを付ければ一定時間ごとに管理室に温度を送信するので、人が現場まで行く必要がなくなります。また、振動センサーを付け、振動しないときはスリープ状態になるようセットしておけば電池の消耗が防止できます。
このようにアクティブタグはタグ自体が電源を持つためにパッシブタグに比べ用途が広がるものの、1個数百円のパッシブタグに対して、タグが1個数千円、リーダが数万円することが広く普及するための障害となっています。

アクティブタグによる「児童見守りシステム」で
登下校時の児童の安全を確認

小学生が登下校時に交通事故や凶悪な犯罪に巻き込まれるケースが少なくありません。こうした児童の安心・安全のためのシステムとして開発されたのが「児童見守りシステム」です。
当社の「児童見守りシステム」は、アクティブタグに振動センサーを組み込み、タグをランドセルにぶら下げることで、登下校時などランドセルを背負ったときにタグがONになり、学校や家庭でランドセルを置いているときはスリープ状態になるものです。このシステムは学校の校門や町中の電柱などに受信機を設置、1人ひとりの児童ごとにタグのIDを変えることで個人を識別、ランドセルが振動しているときは一定間隔で送信し、受信機から管理センターに送られた情報をもとに、管理センターから保護者の携帯電話にメールで「今学校を出ました」「A店の前を通りました」などの情報が届く仕組みです。
「児童見守りシステム」は、当社ブランドで商品化している他に、アクティブタグを他社システムの一部として供給することも行っています。例えば、パナソニック様では受信側にデジタルカメラを付け、写真付きで保護者に情報を提供するなど多機能化したシステムが構築されています。このシステムでは420MHz帯のアクティブタグと950MHz帯のパッシブタグを組み合わせたハイブリッドタグを用いており、アクティブタグで通過情報を検知、パッシブタグで画像情報を管理センターへ送り、通過場所と時刻をメールで保護者の携帯電話やパソコンへ配信、Webで通過時の画像が確認できるというものです。このシステムは2006年の「u-Japan大賞」を受賞しました。
「児童見守りシステム」は420MHz帯ではモデル事業が実施されているとともに、950MHz帯でも雪国を含めて各地で実証実験が行われ、実証実験終了後も多くの保護者から続けてほしいという声が寄せられるなどその有効性が認められています。

950MHz帯アクティブタグのアンテナを
MAGNA/TDM」で効率的に設計

当社がアクティブタグの開発を始めたのは10年以上前になります。当時は420MHz帯(426MHzと429MHz)で、出力は1mWや10mWでした。しかしながら、420MHz帯はデータ伝送速度が遅く送信時間が長いために、高速移動時の読み取り性能が低いこと、複数のタグの同時読み取り精度が低いため複数のリーダの設置が必要であることなどから、総務省は950MHz帯をアクティブタグシステムに利用できるように制度化、「児童見守りシステム」のアクティブタグは420MHz帯から950MHz帯に変わりつつあります。そうした中にあって、当社も950MHz帯のアクティブタグを開発することになり、アンテナ設計にMAGNA/TDMを使いました。
MAGNA/TDM」の導入は2005年です。もともとはタグの位置情報を知る目的のためでした。今はいくつかあるリーダが読み取った電波の強弱でタグの位置を確認する方法が採られていますが、当時は三角測量の原理を用いてタグの位置を確認できるのではないかと考え、アレイアンテナで電波が来ている方角をつかみ、複数のリーダで位置同定するためにMAGNA/TDMを使っていました。現在もその目的でもMAGNA/TDMを利用していますが、950MHz帯のタグのアンテナ設計が求められたことから、そのシミュレーションにもMAGNA/TDMを使うことにしました。
950MHz帯のアクティブタグの開発では、当初チップアンテナを使っていました。しかし、チップアンテナは性能はよいものの1個数百円と量産するには高価なため、ループアンテナを使用することになりました。ループアンテナは基板上にぐるっと一周するものもありますが、420MHz帯でコの字型の金具を使っていたことから、950MHz帯でも同じコの字型の金具を採用することにしました。アンテナ形状も金具もケースのサイズも420MHz帯と同じにしたため420MHz帯を開発した際の技術を活かすことができましたが、アンテナだけは周波数帯が全く異なるため最初から設計を行う必要がありました。そこでMAGNA/TDMでアンテナをモデル化しシミュレーションをして、どうすれば950MHz帯で良い結果が得られるかを追い込んで行きました。
使用する金具や基板のサイズは決まっていたため、スイッチや電池の位置、さらにはアンテナを納める場所もおおよそ決まってしまいます。このためモデル化はメッシュをどの程度細かくするかという程度で、最終的には1mmメッシュで行いました。
モデル化は容易だったものの大変だったのが、思ったとおりに周波数を合わせるチューニングとマッチングです。シミュレーションでも試行錯誤を繰り返しました。それでも現物を試作してテストするよりはるかに楽でスピーディに行えました。

訪問インタビュー:ユーザー訪問:アクティブタグで安心・安全な社会の構築をサポート「MAGNA/TDM」でアンテナ設計をシミュレーション アンテナ部拡大図
訪問インタビュー:ユーザー訪問:アクティブタグで安心・安全な社会の構築をサポート「MAGNA/TDM」でアンテナ設計をシミュレーション スミスチャート表示

実は420MHz帯のときのアンテナ設計は現物で行ったのです。例えば、チューニングを取るのにコンデンサを入れその容量を変えながらチェックする必要がありますが、その都度ハンダ付けをしなければならず、何回も使うとパターンが剥がれてしまったり、基板に使用するフラックス(溶剤)が汚れて高周波性が悪くならないかという心配をしなければなりませんでした。また、アンテナと基板とのショートさせる位置決めも何回も行わなければなりませんが、銅箔をカッターで削ることで影響が出ないかなどの心配がありました。
MAGNA/TDMでのシミュレーションではこうした心配をしないで済んだことは精神的にも楽でした。ただし、試作機で実験をする際に起こる予想外のこと、例えばAC電源にしたときに、そのコードがアンテナにどのような影響を与えるかなどはシミュレーションできません。しかし、420MHz帯でのこうした実験を踏まえてのシミュレーションだったので、950MHz帯のアンテナはシミュレーションのみで設計することができ、短期間、低コストに加え精神面でも大きな成果がありました。
950MHz帯アクティブタグは、420MHz帯に比べ省電力、到達性、即応性、信頼性などに優れていることから、今後、高齢者の見守りをはじめ工場のライン管理、ノートパソコンなどオフィスの備品管理、さらに、タグの底にスイッチを付け持ち上げるとスイッチがONになりアラームで知らせることで美術品のような貴重品管理などさまざまな用途に活用されることが期待されています。

MAGNA/TDMで人体とアンテナの影響の研究を

950MHz帯のアンテナ設計が一段落し、これからはMAGNA/TDMを使いアンテナの人体への影響の研究を検討しています。これはアンテナを人体に取り付けたような状態で使用する場合のアンテナの特性を知るためです。アンテナは実は無線設備の一部であるため電波法による規定があります。アンテナゲイン(外部に出る電波強度)やパワーが規定されており、アンテナゲインが低い場合はパワーアップしてつじつまを合わせていいことになっています。
しかしながら、例えば、空間中にポツンと置いたときはアンテナの特性が非常にいいものの、それを人体に付けると悪くなるというときでも、パワーアップし一定の電波強度を満たすようにしてしまうと、空間中にポツンと置いたときの電界強度が電波法の規定を超えてしまうため、そういうことはできません。そこでMAGNA/TDMでは、あまりゲイン は良くなくても、空間中にポツンと置いたときと人体に付けたときのゲインの差が小さくなるように、 アンテナの シミュレーションをしています。モデルには人体を模したものを組み込み、人体がないときとあるときで、一定の誘電率でシミュレーションしました。それをもとに実際にものをつくってテストしたところ、シミュレーションに比べわずかにゲインは悪いものの、人体に付けてもあまり変わらないということが確認されました。こうした新しい研究に今後ともMAGNA/TDMを活用していきたいと思っています。

初心者でも使いやすいMAGNA/TDM

MAGNA/TDMを導入する際、他社の高価な大型ソフトウェアも検討しましたが、当面はアンテナだけで十分だったので価格の安いMAGNA/TDMを導入しました。初めて使った時も、丁寧なチュートリアル(解説書)があったので、それを見ながら操作していくだけでほぼ使うことができました。強いて言えば、インピーダンスの出し方が当初よく分かりませんでしたが、これもチュートリアルをきちんと読んだら問題なくできました。このようにMAGNA/TDMは初心者にとっても非常に使いやすいソフトウェアです。最近は、USBキーによるライセンス管理になって、通常使っているパソコンが使えない時、他のパソコンでも使えるようになり大変助かっています。
今後もMAGNA/TDMを使ってさまざまなシミュレーションを行いたいと思っていますので、CTCのサポートをよろしくお願いします。

インタビューを終えて │ 後 記 │Editor's notes
昨今、犯罪が増大する中で、子供を守るための一つの手段として注目されている「児童見守りシステム」で活用されているアクティブタグ開発に関するお話を伺い、またタグの開発にMAGNA/TDMが利用されていることをお聞きしたいへん感銘を受けました。
今後もユーザー様のご意見を反映させMAGNA/TDMの開発を進めてまいります。
最後に杉野様には、貴重なお時間を頂戴し、誠にありがとうございました。
(聞き手:CTC前田、猿橋)

名称 セイコープレシジョン株式会社
SEIKO Precision Inc.(英文名)
本社所在地 〒275-8558 
千葉県習志野市茜浜1-1-1
TEL 047-453-0111(代)
代表者 代表取締役 中村 敏宏
設 立 1996年(平成8年)1月31日
資本金 30億円
社員数 約770名
事業内容 ・システムインテグレーション事業
・サービス事業
・ワイヤレス事業
・ビジネス機器事業
・オプトメカトロニクス事業
・エンジニアリング機器事業
・コンポーネント事業