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独立行政法人産業技術総合研究所 様地質情報の電子化とWeb GISを推進
-安全・安心な社会基盤の構築と持続可能な社会の実現を目指して-

お話を伺った方

独立行政法人 産業技術総合研究所 産学官連携コーディネータ
古宇田亮一 様

プロフィール
1977年通商産業省工業技術院地質調査所入所、2001年(独)産業技術総合研究所地質情報管理室長、2004年同地質調査情報センター総括、2005年から同産官学連携コーディネータ、現在に至る。70~80年代は黒鉱床成因、資源評価と人工知能、衛星リモートセンシングの地質学的を、90年~2000年代は世界資源評価とニューラルネットワーク、CG-三次元地下地質構造の可視画像化、地理情報システム、地球観測システムの研究を行う。主な国際共同研究は、中国南京地質鉱山研究所、米国地質調査所、インドネシア科学院、カナダ地質調査所等との実績がある。専門は資源地質学、情報地質学、画像処理。主な著作に『エネルギー・資源ハンドブック』(共著、オーム社)、『地球環境工学ハンドブック』(共著、オーム社)、『いつ起こる小惑星大衝突』(共著、講談社)など。

独立行政法人産業技術総合研究所(以下、産総研)は、産業技術の広い分野におけるさまざまな技術開発を総合的に行っている、日本最大級の研究組織である。2001年4月の独立行政法人化で、従来の15の研究機関が集約され、研究活動の効率化、異なる技術分野の横断的研究などによる新技術の創出などが可能となった。カバーする産業分野は時代とともに変化するが、現在は、「ライフサイエンス」「情報通信・エレクトロニクス」「環境・エネルギー」「ナノテクノロジー・材料・製造」「地質」「標準・計測」という6分野に分類されている。
産総研の地質部門は、旧地質調査所時代から国内における唯一の総合的な地質調査機関として、国土および周辺海域のさまざまな地質情報について体系的・継続的に整備を行い、公共財として社会に提供するとともに、地質調査を基本にエネルギー資源や鉱物資源、地圏および海洋環境に係わる研究・技術開発を行っています。地質調査所時代から長年にわたりGIS地質情報の高度化、地質情報の標準化、数理地質学、衛星画像情報処理等の研究に取り組んでいる同研究所・産学官連携コーディネータ・古宇田亮一氏に、地質情報の電子化とWeb GISについて伺いました。

地質の総合的な研究で社会に貢献

産総研は、ライフサイエンス、情報通信・エレクトロニクス、ナノテクノロジー・材料・製造、環境・エネルギー、地質、標準・計測と幅広い分野の科学基盤から実用化までを総合的に研究する公的機関です。産総研の地質分野は、地圏を中心に、それと係わる水圏部分までを主な研究対象に、いわゆる「地質の調査」に根ざした研究を行っています。特に、日本列島の地質の特徴である地震、火山、沿岸海洋地質などの研究は世界的レベルにあります。

産総研の地質分野の特色は、幅広い分野の研究者により学際的な研究活動を進めやすい素地が整っていることにあります。例えば、環境・エネルギー問題では、地質、環境、エネルギー分野が連携し融合、産総研だからこその総合的な研究を行っています。

近年は、「地球をよく知り、地球と共生する」というキーコンセプトに立脚し、最新の地質情報と科学的根拠に基づいて、将来にわたる地球環境の健全性の担保、自然災害発生リスクの的確な理解のための科学的な道筋を示すことで、産業立地評価、自然災害の軽減、資源の利用・地球環境の保全、大深度地下空間の利用などの国家的、国際的課題を解決し、持続的発展可能な地球社会の構築を進めています。こうした中で、産総研の地質分野は、地質調査所時代から、地質情報の電子化に取り組んできました。

地質情報の電子化の歩み

今、地質情報はネットワーク時代に対応した情報提供が求められています。電子化する意味は、地質図を単にデジタルデータに置き換えるということではなく、多様な情報を複合化することが可能だからです。例えば、地震に対しては、震源域の地質や地盤情報、メカニカルデータ、活断層データなどを統合した情報を発信することで、住民に安全・安心を提供できるからです。

地質や地盤情報の電子化は、アメリカで1970年代からメインフレーム上で地質情報をGIS的に処理する研究の中で行われるようになりました。80年代にはGISの仕組みを取り入れて、きちんとした地質情報をつくることが始まりました。我が国でも、地質調査所(現産総研)が日本で初めて「ARC/INFO」という地理情報ソフトを使って、地質図の電子化を始めました。この頃になると、地熱エネルギー、石油、鉱物資源などさまざまな分野でGISが使われるようになりましたが、それぞれが単独で横の繋がりがなく、また、システムもソフトウェアもプラットフォームもバラバラという、言わば“方言”であったため思ったように普及しませんでした。

1984年に日本の学術組織間をコンピュータネットワークで結ぶ「JUNET」が立ち上がり、ミネソタ大学のMAPサーバができたこともあって、90年代前半にかけて徐々にGISもネットワークを介して利用されるようになりました。しかし当時は、通信速度も遅く、地質図1枚を見るのにも非常に時間がかかるという問題がありました。ただ私は当時から、ネットワークの速度は今後急速に速くなるだろうと予想、将来へ向けたWeb発信の研究を進めました。

産総研で提供する特徴ある情報は、地質情報に基づいた地質図です。2001年、地質調査所の産総研への統合に伴い、地質情報管理について産総研内部の関係各部署と連携しつつ2004年から本格的にWeb GISの研究開発を進め、2005年からWeb GISの構築に着手、2006年には地質情報インデックス検索システム「G-INDEX」と「GEOMAP-DB」を構築、地質調査総合センター(GSJ)で提供を開始しました。後者のGEOMAP-DBは、CTCの協力でおよそ半年という短期間で構築することができました。

地球を丸ごとカバーする全地球地質図ポータルの構築へ

GEOMAP-DBのWEB-GISサーバは米・仏・独などで使われている世界のデファクトスタンダードといえるESRI社のサーバ上に構築、データベースはORACLEを採用しました。使用言語は、地理学マークアップ言語「GML」という世界標準のXMLベースデータを採用、「GeoSciML」という地質情報構造規格に沿ってつくられています。

XMLについては、今、米・欧に日本も加わり共通の標準語をつくる動きがあります。全世界の地質情報を標準化し、地球の地表を、海底を含めてすべてカバーする全地球地質図ポータル「OneGeology」をつくろうという構想です。2007年5月に、オランダ地質調査所で第1回実務者会議が16カ国1自治領の担当者が出席して開かれました。この会議は、地球全域を覆う100万分の1縮尺の数理地質図をインターネット上に公開することを目的としたもので、その具体的な行動計画を立案することにありました。この結果、日本は2007年12月31日までに日本のMAPサーバから日本の数理地質図を試験配信すること、2008年1月1日から地域ハブとして東・東南アジアを対象としたアウトリサーチ活動を開始することなどが決まりました。

世界が1つの標準言語、フォーマットによる「OneGeology」が広く一般に開放されると、地質情報に多様な情報を書き加えることが可能となり、その応用分野は地質分野のみならず非常に広範な領域で活用でき、科学、工学の進歩・発展に貢献できるものと考えられます。地質情報に関しては、今世界ではアメリカ大陸の協議会、欧州はアフリカを含めた協議会がありますが、日本はアジアのリーダーとして、中国、韓国、インドなどの橋渡し的な役割を担い、アジアの地質情報の電子化とその公開推進を図っていくべきだと思っています。

安全・安心を提供するための基盤がWeb GIS

2007年7月に新潟県中越沖地震が発生し、原子力発電所の一部が被害を被るという出来事がありました。また、京都で発生した地震でありながら、遠く北海道で大きな揺れが発生したという出来事もありました。地震については断層モデルによる地震動評価など地震研究の分野でもさまざまな研究が進められていますが、その基となるものは地質や地盤情報です。我が国の工業地帯の多くは臨海部にありますが、実は沿岸地域は今でも地質図の空白地帯となっています。このため沿岸域の断層調査が国家プロジェクトとして始まりました。今後は地質図の空白部を埋めるとともに、地質情報をWeb上で公開にすることで土木、建築、資源エネルギー、環境などさまざまな分野で活用されることが期待されます。

2007年7月に、産総研と独立行政法人土木研究所が地質情報と地盤工学情報を統合する「統合型地下構造物データベース研究」を協力して推進することになりました。これは都市圏の平地地下構造に関するボーリングデータ等地質・工学情報を収集し、地震防災、環境保全、都市整備など幅広い目的で利活用可能なデータベースを整備・公開することを目的としています。こうした情報が公開されれば、例えば、建造物を建てる際に地盤の硬軟がすぐにわかり、安全な建造物を早く安くつくることが可能となります。

CO2の地中貯留にも求められる地質情報

地球温暖化問題は、今日全世界共通の最大のテーマと言えます。1997年に結ばれた「京都議定書(気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書)」で日本は、2008年から2012年の間に、温室効果ガスを1990年比マイナス6%とする削減目標が課せられています。しかし、05年度の実績は逆に7.8%増加するなど、削減目標の達成が厳しいものとなっています。

こうした中で、世界的に注目を集めているのがCO2を地中へ閉じ込める試みです。イギリスではCO2の地下貯蔵化で一定の効果を挙げていますが、CO2を地下にしっかり閉じ込めるには断層情報が不可欠です。我が国でも火力発電所や工場などから出る排出ガスからCO2だけを分離・回収して地中で閉じ込める動きが活発化していますが、具体的にどこに閉じ込めればいいのかを各企業などが知る判断材料として、断層情報を公開することは社会的な使命と言えるのではないでしょうか。そのためにも、可能な限り地質・地盤情報を公開するような仕組みが必要です。

課題は品質の標準化と著作権問題

地質情報のWeb GISを健全に発展させるために必要なことは、標準化です。地質情報と一口に言っても多岐にわたり、国内だけでもさまざまな機関・企業がそれぞれ多様な地質情報を持っており、形式もマチマチです。これらの情報をWeb上で見たり、書き加えたりするには、形式の標準化と品質の標準化が必要です。特に、品質の標準化は信頼性を保つ上で欠かせませんが、それをどういう方法で保証し確認するかは今後の課題となっています。社団法人全国地質調査業協会連合会(全地連)が2007年度から地質情報管理士認定制度をスタートしました。地質情報の品質を維持する上で期待しています。

地質図は、岩石の定義1つをとっても、国内においても呼び名が人それぞれで異なるものがあり、世界となると名称の統一だけでも容易ではありません。そこで産総研は、岩石の数字によるコード化を提案、2008年に開かれる万国地質学会議(IGC)でこれを提案する予定です。これはシ ソーラスも考慮したものであり、日本発の新しい世界標準になる可能性があります。

もう1つの課題は、地質情報の公開です。例えばボーリングデータは、企業秘密等の理由から公開されないものがたくさん存在します。調査会社はボーリングデータを持っていても、著作権法の関係から目的外では利用できないということもあります。2007年「地理空間情報活用推進基本法案」が法律となりましたが、地質情報についても、公的データは無償で提供する、使って役に立つかわからないデータは安く提供する、ホットデータも5年程度で公開するなど、もっと利用できるような制度の整備が求められます。

言葉が通じあえるパートナーとしてCTCに今後も期待

CTCには、GEOMAP-DBや地質情報インデックス検索システム「G-INDEX」の構築をはじめ、以前からシミュレーションやシステム構築で協力いただいてきました。いつも期待以上のことをやっていただき、我々の周囲でも高く評価されています。また、3次元地質解析システム「GEORAMA」は、地質分野のデファクトスタンダードとして多くの方々に活用されています。

CTCの皆さんは、日本の中で我々と言葉が通じあえる友人であり、我々の重要な戦力です。ますますアウトソーシングが進む中で、ソフト開発、シミュレーション、システム構築などでのパートナーとして期待しています。

インタビューを終えて │ 後 記 │Editor's notes
地質・地盤情報は、我々が生活していく上でまさしく基盤となる情報であり、近年、防災・環境関連分野等でその重要性がますます高まっています。古宇田様は地質・地盤情報の電子化・標準化分野で世界的に活躍されており、今回は、たいへん興味深いお話を伺うことができました。今後も情報公開・整備に向けての活動を通して、生活の安全・安心及び産業界での地質情報利用などにますます貢献されることと思います。 最後に古宇田様には大変貴重なお時間を頂戴いたしまして誠にありがとうございました。(聞き手:CTC山根・亀岡)

名称 独立行政法人 産業技術総合研究所
http://www.aist.go.jp/
本部所在地 東京本部 東京都千代田区霞が関1-3-1
つくば本部 茨城県つくば市梅園1-1-1
創業 1882年(明治15年) 農商務省地質調査所設立
2001年(平成13年)4月  独立行政法人産業技術総合研究所に組織変更
理事長 吉川弘之
職員数 役員12名、常勤職員3,191名(うち研究職員2,487名)(平成19年4月1日現在)
産総研は、産業技術の広い分野におけるさまざまな技術開発を総合的に行っている、日本最大級の研究組織である。2001年4月の独立行政法人化で、従来の15の研究機関が集約され、研究活動の効率化、異なる技術分野の横断的研究などによる新技術の創出などが可能となった。カバーする産業分野は時代とともに変化するが、現在は、「ライフサイエンス」「情報通信・エレクトロニクス」「環境・エネルギー」「ナノテクノロジー・材料・製造」「地質」「標準・計測」という6分野に分類されている。
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