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パシフィックコンサルタンツ株式会社 様設計におけるエンジニアリングジャッジメントの重要性
-数値解析結果を実設計へ反映する過程-

お話を伺った方

パシフィックコンサルタンツ株式会社大阪本社 交通技術部
構造グループ グループリーダー: 富山泰男 様(写真右)
技術課長: 森崎啓 様(写真中央)
プロジェクト部 鉄道グループ 技術課長: 脇田一 様(写真左)


1951年欧米諸国の土木技術界に精通していた白石宗城は、欧米式のコンサルティングエンジニア(=技術士)制度の導入が不可欠との信念から、A.レイモンド及びE.フロアと均等出資によるPacific Consultants Inc.をアメリカに登記。1954年3年間続いた日米合弁会社を解散し、同時に資本、人材共に日本人によるパシフィックコンサルタンツ株式会社(PCKK)を設立。その後、国内海外部門とも順調な成長を続け、1969年当時の海外事業部門を株式会社パシフィックコンサルタンツインターナショナル(PCI)として別法人化。2000年PCKKとPCIは世界のスーパーコンサルタント・グループを目指すため両社を完全子会社とするパシフィックコンサルタンツグループ株式会社(PCIG)を設立した。

現在、グループで800名を越える技術士、60名を超える一級建築士を含め社員数約2200名。 PCKKは創立以来、卓越した技術で世界130カ国以上において10万件を超えるプロジェクトに関与し、社会基盤整備に活躍してきた。

都市部の過密化や、景観重視の社会情勢に伴い、より効率的な都市機能充実のための一手法として、「新規の社会基盤を地下へ」という動きがありますが、近年の地下構造物設計では、耐震、近接影響、地下水保全、周辺環境への影響など、多くの設計課題への対応が必要になってきています。今回のインタビューにご登場のパシフィックコンサルタンツ(株)大阪本社 交通技術部/プロジェクト部は、多種多様な最新の専門知識をもったプロフェッショナル軍団として、地下鉄、道路トンネル、共同溝、地下駐車場などの地下構造物の設計に携わっていらっしゃいます。 同部署では、CRCの静的~動的まで多くの解析ツールをご利用いただいており、CRCの「解析サポートサービス」についても効果的にご利用いただいております。 このインタビューでは、実績を踏まえた、地下構造物の実設計への数値解析シミュレーションの適用性、及びその動向などに焦点をあてて、耐震検討手法まで含めてお伺いいたしました。

部署間を横断し、高い専門知識を持った技術者が総合技術力を発揮。

大阪本社交通技術部では、構造、トンネル、防災技術の各グループが、主に道路交通技術に関する事業に対応しており、プロジェクト部では、地盤、環境、建築、鉄道、施設の各グループが、主にプロジェクト関連の事業に対応しています。ただし、実際には設計対象が明確に分かれているわけではなく、設計対象に応じて、必要な専門分野の設計技術者が連携しながら業務に対応しています。例えば、鉄道と道路の立体交差事業などでは、鉄道、構造、施設、地盤などのグループから高い専門知識をもった技術者を担当者として選定し、これらの技術者が連携して総合的な技術的課題に対応しています。 また、兵庫県南部地震以降の構造物設計では、耐震性能に対してどういう評価をしているのかということを発注者から常に求められており、橋梁、地下構造、建築、港湾、河川・・・など、あらゆる構造物が耐震設計の対象になっています。したがってこれらの設計においては、単独部署での対応が難しくなってきており、部署間を横断した業務実施体制を構築することにより、設計コンサルタントとしての総合力を発揮することが必要になってきています。

設計に必要なエンジニアリングジャッジメント 

設計に必要な数値解析シミュレーション検討で、従来の2次元解析と3次元解析を併用して検討を進めていった3次元ボックス構造の解析例があります。ご覧のように(下図参照)複雑な構造であり、本線ボックスの横断方向に2次元でモデル化しようとしても、本線上部に斜めに交差ボックスが入ってきているためにうまくモデル化できなかったわけです。しかしながら、この設計業務において、3次元モデルを用いて常時設計から耐震設計まで行うとなると、解析モデルの選定、境界条件や荷重条件の選定、解析結果の評価、コスト、工期などいろんな面で問題が考えられました。そこで、本設計では、常時設計においてまず幾つかの2次元モデルを選定して構造解析を行いました。次に、3次元モデルを用いた常時設計を行い、先に実施した2次元設計のうちのどのモデルを設計に使うのが妥当かを、3次元解析の結果を踏まえて評価していく方法を採用しました。

3次元FEM解析モデル

ボックスカルバートなどの設計では、床版、側壁などの板構造の部材を2次元の梁・バネでモデル化して設計を行うのですが、構造や荷重条件が複雑になると、板としての評価をしたうえで2次元の設計に持ち込まないと不合理な設計になる場合があります。 通常の地下構造物の設計では、常時設計により構造部材を選定した後に耐震検討を実施し、必要に応じて耐震補強を行うのですが、この場合の耐震検討では、常時設計で構造物に発生している初期断面力を適切に評価することが重要となります。それを合理的に評価するには、3次元解析が妥当だろうと判断しました。 2次元解析の段階である程度妥当性のある設計モデルを想定していたのですが、3次元解析を行うことで、それが具体的に検証できたと考えています。3次元解析を実施することによって、他の一般断面を含め評価できることが確認できたので、全体的な合理化が図られたと思います。

モーメントコンター図軸力コンター図

3次元解析アプローチが必要かというようなジャッジメントは、技術者が気づかなければ素通りしてしまうところかと思われます。設計全体を眺めたときに、はたして従来の設計の方法だけでいいのかどうかは、「もうひとつの設計上の判断」でもあるわけです。従来の2次元解析でいろいろ割り切って解析・設計する場合、個々の計算は簡単ですが、種々のケースを想定するとかえって無駄な作業が生じることがあります。発注者との打合せでは、基本的にシンプルなモデルで考えますが、設計に少しお金をかけても、積極的に3次元解析を適用する方が成果品の品質、コスト、工期を総合的に判断した場合にはメリットがあることが多いと考えています。 数値解析的には3次元解析で考えるほうが楽ですが、シェル要素に発生した断面力をどう評価し、設計に反映させるかといったような設計上の判断を含めて、より高度な設計上の判断が必要になってくると思います。したがって、3次元解析で得られた結果に基づいて設計することが必ずしも合理的でない場合もあると思います。事例のように開口部があったり、特殊な形状だったりする場合には、前提として3次元効果をちゃんと見込んだ評価でエンジニアリングジャッジをしていくことが重要になってきます。場合によっては想像もしなかったところで応力集中を起こしているようなケースもあり、2次元解析ではカバーしきれない部分が3次元解析では見えてくることがあります。したがって、そういうところに不安を抱きながら設計を行っている技術者としては、できるだけ3次元で確認しておこうと考えるようになります。設計事としてはとても煩雑なので、決して3次元で積極的に設計しようなんて気はないのですが、そういうエンジニアリングジャッジメントは設計を実施するうえで重要であると考えています。

地価構造物の耐震設計に対するエンジニアリングジャッジメント。

阪神淡路大震災以前の地下構造物の耐震設計では、ほとんどが応答変位法で実施されていました。臨海部とか構造物間の相互作用がある場合には、例外的に動的解析を行っていましたが、その動的解析においても大規模地震まで想定するということは少なかったので、地盤等価線形、梁は線形で検討することがほとんどでした。 現在でも設計基準上は梁・バネモデルの応答変位法が主流ですが、兵庫県南部地震以降、従来L1対応であったものが、L2対応になってきたわけです。これについてはL2時の地盤バネをどう評価するかが課題となっています。 地下構造物を対象とした2次元静的耐震解析手法には、応答変位法以外にもいろいろありますが、その中でも近年、手法の合理性や解析ソフトの整備の面で採用されることが多くなっている手法がFEM応答震度法です。応答変位法のL2時の地盤バネの評価問題もあって、応答震度法はある程度合理的な手法だと考えています。当社では早期から研究レベルで応答震度法への取り組みを行ってきています。 応答震度法を適用した地下構造物の設計例として、最近実施した4連アーチカルバートトンネルの耐震検討があります。この断面規模(全幅約56m)の4連カルバートというものは珍しく、しかもアーチ形状ということで非常に特殊な構造でした。この設計を行うにあたっては、土被りが比較的小さい箇所で、上部の荷重変動に対して十分な安全性を確保することが必要であり、いろいろな要素に対して検討する必要がありました。耐震検討に関しては、設計手法の適用性についての情報が十分ではありませんでしたので、多径間アーチカルバートへの耐震設計手法の適用性について妥当性の確認が必要であり、動的解析も実施しています。設計にあたっては応答震度法と動的解析の解析結果を比較しながら妥当性の確認を行い、結果的に応答震度法で部材を決定しましたが、おおむね問題はありませんでした。 応答震度法の解析結果と動的解析の解析結果は、単純に比較できませんが、必要な技術的判断を伴って行えば、従来適用範囲の限られた手法でも、その適用範囲から外れた実設計において適用できるという事例です。

FEM応答震度法 解析結果>変形図
FEM応答震度法 解析結果>モーメント図FEM応答震度法 解析結果>軸力図

応答震度法も等価線形解析で、成層地盤とういう仮定の下での設計手法であって、適用範囲が限られています。だからといって、地下構造物設計において毎回動的解析を行うことは不経済ですし時間もかかります。兵庫県南部地震以降、橋梁などは基本的に動的解析でトライアルしながら設計しますが、これは地上に出ている関係で、地震時で物事が決まっていくからです。地下構造物は震災前であればほとんど常時設計で決まっていましたし、基本的には常時設計で部材が決定することが多い構造であることは確かです。そこで、実際には左右非対称ではあるけれども設計手法としての割り切りが必要な場合があります。その時にやはり、先ほどの2次元解析と3次元解析との場合と同様に、採用した手法による解析結果を技術的に評価して、最終的な設計成果としての妥当性を判断する必要があります。近年の設計業務では、このような技術的な判断が伴うことが多くなってきており、われわれ設計者・技術者には常にエンジニアリングジャッジメントが求められるようになってきています。そしてこのような業務こそ、当社のような総合建設コンサルタントが、総合技術力を発揮する舞台であると考えています。

技術進歩とツール整備。ソリューションベンダーとしてのCRCの役割。

近年の情報技術の進歩に伴い、土木分野でも高度な数値解析ツールの整備が急ピッチで進められており、一昔前までは大型コンピュータでしかできなかったような非常に複雑な解析計算が、最近ではパソコンレベルで行えるようになり、設計技術の進歩との相乗効果でより合理的な設計を行なうことが可能になってきていますが、一方では、適切なエンジニアリングジャッジメントを行なわずにこれらの解析ツールをブラックボックスのように利用し、結果として技術的に問題のある成果が増えてきているのも事実です。このような状況の中、CRCさんには、数値解析機能の向上や表面的な機能向上だけを目指すのではなく、今いろんなところで話題になっている倫理観をもって、フールプルーフの機能を備えたエキスパートシステムの開発整備に向けてがんばってもらいたいですね。また、解析サポートサービスにおいても、より設計者側の意図を汲んだ適切なサービスを提供していただくことにより、よりよいパートナーシップを築いていけるよう協力をお願いしたいと思います。

インタビューを終えて │ 後 記 │Editor's notes
適切なエンジニアリングジャッジメントを行なうことにより、顧客のニーズにマッチした成果を提供しておられるパシフィックコンサルタンツ(株)様の姿勢がよくわかる内容のインタビューでした。CRCとしても、ご利用いただいているツールのより一層の整備や、設計業務に役立つ解析サポートサービスの充実に力を入れ、今後もよりよいビジネスパートナーシップであり続けたいと思います。
最後に富山様、森崎様、脇田様には、貴重な時間を頂戴いたし、誠に有難うございました。(聞き手:CRC村中)

名称 パシフィックコンサルタンツ株式会社
パシフィックコンサルタンツ株式会社
パシフィックコンサルタンツ株式会社
http://www.pacific.co.jp/
本社所在地 東京都多摩市関戸一丁目7番地5
創業 1951年(昭和26年)9月4日(設立:1954年2月4日現法人に組織変更)
社長 荒木民生
資本金 4億9千万円(授権資本8億円)
年商 390億円(2002.10~2003.09)
社員数 1299名(2004.5現在)
主な事業概要 都市・地域計画、環境、道路、鉄道、河川、上下水道、港湾、空港、建築、福祉、教育、医療、安全保障等の社会資本整備の企画、立案、事前調査、調査、設計、施工管理等の一連の技術サービス
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