80年代のリモート・バッチ処理から販売ソフトウェアの購入へ。
CRCとのおつきあいは70年代初めからですので、30年以上にわたります。当初はCRCが開発したTSSターミナルやリモート・バッチ・ターミナルを導入し、CRCの超大型コンピュータと結んでPCT桁の設計計算を行っていました。1982年には「漢字出力によるT桁プログラム」をCRCと協力して開発し全社的に利用するなど、かなり早くに全国ネットで設計業務の効率化を実現しました。
その後しばらく当社独自でプログラムを開発・運用する時代が続いたのですが、CRCなどがソフトウェアを販売するようになったので、当社もそれらを評価してライセンスを購入してきました。いまではCRCのPC橋設計ソフトウェアは、ほとんどすべて導入しているのではないでしょうか。他社製のソフトも導入していますが、入力のしやすさなどもあり、CRC製ソフトのライセンス数がかなり多くなっています。
例えば、「PC-COMPO(PCコンポ橋設計計算プログラム)」などは、画面を見ながら対話型で入力でき、部材の概略の数量まで算出できてすぐ報告書に使えるところがよいと若い技術者から評価されています。バッチ処理に慣れている年代の人からはいちいち対話型画面を開くのは面倒だという声もありますが(笑)。
ケーブルなどの配置がビジュアルで見られるのはチェックしやすくてよいですね。応力計算上は配置されているが実際には配置できないといったケースが、ビジュアル化によって発見できることがあります。それから結果が数量で出て、すぐに設計費用の計算に使えるものがやはり設計現場では活躍しています。
なかなか難しいPC構造物の設計
橋や道路など公共のPC構造物は、施工主である自治体や公団が設計コンサルタントに依頼して設計したものを、当社のような施工業者が施工を請け負うという仕組みになっています。そのときに詳細設計を私たちが行う場合もあります。またPC橋梁は検討要素が多くなかなか設計が難しいので、いろいろな局面で発注者のお手伝いをすることがあります。そのときに自社開発よりも市販ソフトウェアを使用したほうが、比較検討したり、後から手順を確認したりしやすいということはあります。
設計ソフトウェアでは、最終的な結果―例えば太さ何ミリの鉄筋をどこそこに何本配置するというようなことですが―それがどうして決まったかを、設計過程のさまざまな値も含めて、きちんと計算書から読み取れるようになっていてほしいですね。そうでないと説明ができませんから。
ただし、こうしたことは今後変わっていくかもしれません。特に、これから性能設計が主流になってくると、仕様を細かくチェックするというよりは、その性能が本当に満足されていることがわかればよいので、ソフトウェアに求められるものも変わるでしょう。
メタルの支間”に「スプライスPC構造」で挑戦。
PC技術を広めていくために、当社では新しい工法の開発に取り組んでいます。その1つが「スプライスPC構造」です。従来、支間40m〜60mの中規模橋梁はPCだとコストパフォーマンスが悪かったのです。支間20〜30mは鋼橋と比べて安く、また70mを超えてもそれなりに安い構造があります。ところが40〜60mの場合は70m超の技術を使って架けなければならず、どうしても割高になっていました。俗に“メタルの支間”と言われていたくらいです。
そこで、なんとか鋼橋と比較の対象になる構造はできないかと考え、支点上のみコンクリートを場所打ちし、中間部の部材は工場で作ることで現場作業を減らしてコストを圧縮する方法を開発しました。全部工場で作れば安いように思えますが、そうすると設計基準が厳しくなり、これも経済的ではなくなってしまいます。場所打ちと工場製品を接合することにより非常に経済的に建設することができるようなりました。
ただし、この構造は、クリープの解析、断面での力の伝達方法など、PCの特異な要素を全部持っているため計算はかなりやっかいです。このスプライスPC構造を解析できる汎用ソフトは、いまのところCRCの「CONST(任意形コンクリート橋一貫設計システム)」しかありません。CONSTは計算の自由度が高いので、場所打ち部分は箱桁で、工場製品部分は単純桁で計算することができ、当社では開発当初からCONSTで設計計算をしています。
既設コンクリート構造物の補強――アウトプレート工法。
最近のトピックスとしては「アウトプレート工法」の開発があります。
これは、カーボンファイバーを板状にしたアウトプレートを緊張した状態で既設コンクリート部材に接着し、部材耐荷力を向上させる補強工法です。ひび割れが生じている構造物では、プレストレスの導入によりひび割れを抑制することができますので、耐久性も向上すると思われます。 当社と日鉄コンポジット(株)、(株)国際建設技術研究所の3社で開発した工法で、ミソは両端に定着体を使っているところです。従来の連続繊維シート接着工法に比べ、アウトプレートを緊張することにより、コンクリートにプレストレスを導入することが可能で、少ない補強材量で大きな補強効果を得ることができます。また、アウトプレートは薄いので補強後の外観形状、断面変化がほとんどありません。
補強・補修に関しては、今たいへん話題になってはいますが、手間がかかる割に発注金額が安いのが実情です。またコンクリートが本格的に使用されるようになってから、まだ50年ほどしか経っておらず、補修を必要とするような構造物が少ないということもあります。今すぐ補修が必要なのは塩害橋ですが、これは内部の塩分によって鉄筋がさびるというものですからアウトプレート工法などは向きません。補修・補強は、いわばオーダーメイドのようなものであり、ケースに応じていろいろな工法を作っていく必要があると思います。
アウトプレート工法の特徴
高い曲げ補強効果
終局曲げ耐力の向上、鉄筋応力度の低減
高いひび割れ制御効果
既存ひび割れを閉じ、ひび割れ発生荷重を向上させる
たわみの回復
死荷重に対しても有効
耐久性の向上
ひび割れ拘束による有害物質の浸透抑制、疲労耐久性の向上
ミニマムメンテナンス
腐食しないCFRPを採用、定着体には十分な防錆措置を講じる
連続桁の支点上の補強が下面から可能
プレストレスによる二次モーメントの有効利用
アウトプレート
工場生産した高強度炭素繊維プレート
トウプレートFTP-C1-20-50を使用工場生産のため均質、高品質
アウトプレートの性能
連続繊維の種類: 高強度型炭素繊維
引張耐力: 230kN
ヤング係数: 1.56×105N/mm2
公称値: 50mm
公称厚さ: 2.0mm
工場で鋼製定着体を取付けたプレハブプレート
定着部の信頼性確保、現場工期の短縮
簡便な施工手順
新開発の専用小型軽量特殊ジャッキを用いる事で、既設躯体を利用して重機を用いずに簡易にスピーディーに緊張作業が可能。
|
 |
資料提供:ドーピー建設工業(株) |
実は新品のまっさらな橋を作るほうが設計は楽です。補強・補修工事では、何十年も前の図面を引っ張りだして、どんなPC鋼材が入っているのかなど、いわば調査から入るわけで、それを現在のスペックで計算してみて今の荷重でもつかどうかを検討し、補修計画を立て改めて設計し直すのです。設計の手間としては新設橋をはるかに上回ります。また、新設ならソフトウェアやマニュアル類を使って若い人でもできますが、古いものは工期が短く難しいためコストの高いベテランが担当しなければできません。ところがなかなか日本ではこうした頭を使うこと、手間のかかることにはお金を払ってくれません。しかしそうは言っても今後は補強・補修工事も増えていくと思われるので、それに対応した技術を蓄積しているところです。 現在、当社では効率性や技術レベルの均一化を目指して、全国の設計部門を再編中です。これにより今まで増える一方だったソフトウェアのライセンス数も、少し落ち着くのではないでしょうか(笑)。
インタビューを終えて │ 後 記 │Editor's notes
また、このたびCTCの「PC-BEAM(PC単純桁設計プログラム)Ver.4」に、補強工法として「アウトプレート工法」の機能を加えさせていただくことになりました(2004年3月リリース)。 今後、CTCがより使いやすいPC橋設計ソフトウェアをご提供していくためにも、PC構造物の施工や補強で多くの実績を重ねておられるドーピー建設工業様とは、ますます緊密な関係を築いてまいりたいと願っています。
最後に今村様、荘司様、石戸様には貴重な時間を頂戴いたし、誠にありがとうございました。(聞き手:CRC青木)