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東電設計 株式会社 様DYNA2Eを組み込んだ高度な耐震診断手法を確立
-液状化解析では簡易な新プログラムも開発-

お話を伺った方々(写真左より)

 技術開発本部 建築技術部

課長代理 太田孝平 様
  小山桂介 様
  吉田洋之 様


東電設計(株)は1960年、「土木、建築の設計および監理」を主たる事業目的として設立された。1961年に「電気設備の設計および監理」を事業目的に追加、以来、40余年にわたり東京電力(株)の子会社として、主として国内外の電力施設・設備の調査・設計・監理業務に取り組んできた。現在では、土木、建築、電気・通信等に関する総合コンサルタント会社として、これまでに培ってきた技術・知識・経験を活かし、企画からメンテナンスまでをワンストップサービスで提供している。
21世紀に入り、人と自然の関係が見つめ直されるなかで、東電設計でもコンサルタントとして、より豊かな生活、高度な利便性を追求するだけでなく、自然、環境との調和を配慮した快適で安全な社会づくりに貢献している。

東電設計株式会社技術開発本部は、社内で保有する技術を横断的に統合し、新技術の研究・開発や独自の耐震技術の推進を行っておられます。

東電設計の各部署では40年以上にわたり、CRCの計算サービスや各種ソフトウェアをご利用いただいてまいりました。同本部の建築技術部でも、CRCで開発してきた3次元骨組構造物非線形動的解析システム「DYNA2E」と構造物・地盤連成応答解析システム「DINAS」を1993年に導入され、バージョンアップやカスタマイズを繰り返しながら、10年にわたりご活用いただいています。

今回は、構造設計や耐震診断の最前線で活躍されている太田孝平、小山桂介、吉田洋之の3氏に、最近同部が開発された耐震診断の新手法などについてお話をお伺いました。

大型コンピュータでのバッチ処理時代から長年にわたりCRCを活用。

社内の先輩方の話を聞くと、東電設計とCRCの関係は、コンピュータの入力がパンチカードの時代からだそうです。1970年代に当社の設計業務が、一般の電力施設から原子炉施設へと高度化していくなかで、当時日本橋にあったCRCの計算センターに技術者が詰めきりになって、大型コンピュータで大規模な解析計算を行っていたという話です。その後、CRCと回線で結んで端末から計算を流すリモートコンピューティングの時代となり、さらには自社のワークステーションへのソフトウェア導入と、形を変えてCRCを活用してきました。いまでも当社のコンピュータリソースでは計算しきれない解析を委託することもあり、プリポストプロセッサ「ATLAS」(CRCで開発)や、同じ技術本部内の土木技術部で導入しているFEM系構造解析や流体解析のソフトウェアも利用しています。

東京電力とともに新しい評価手法や設計指針を研究。 

建築技術部では、原子力発電所、火力発電所、変電所や営業所など電力関係の建物を対象として、構造設計や耐震診断・補強の詳細検討などを行っています。こうした業務には、評価手法確立のための研究と、実際の建物に対する評価・判断を行う実務プロジェクトがあります。どちらもほとんどが東京電力からの発注によるものです。

構造設計は、建物が地震や風、振動などの外力に対して安全かどうかを評価するためのものです。発電所などの建物は、非常に詳細に安全性を調べる必要があり、またプロジェクトごとに立地条件などが大きく異なり、建物の構造も複雑です。そこで建屋の形状などは専門部署で設計し、当部はそれに対する外力の評価を専門に行っています。

研究業務では、解析結果と実現象の計測結果を照らし合わせ、どういうモデルが最適かを探り、新しい評価手法や耐震設計指針を作っていくというスタンスに立ち実務に反映しています。東京電力は業界のリーディングカンパニーとして独自の手法や指針を追求・発表していく使命があり、当部もその一翼を担っていると自負しています。

より正確に地震時の建物の挙動を把握する「動的耐震診断」。

新しい評価手法を開発し、それを実務に応用している例をご紹介しましょう。 耐震性が低いと判断された建物に対し、より正確な地震時の挙動を把握するため、動的耐震診断を行います。当部で行っている診断の流れは次のとおりです。

まず、震源を決めデータベースから模擬地震波を作ります。表層地盤の液状化状態を考慮するため、新しく開発した「累積損傷度を考慮した液状化解析手法」を用います。建物の解析(質点系モデルによる地震応答解析)は、DYNA2Eをカスタマイズしたプログラムを使用しています。さらに詳細な検討を必要とする場合には3次元立体フレームモデルによる解析を行います。解析の結果、耐震補強が必要となった場合には、最適な補強方法を提案します。

こうした一連の手法は以前からありましたが、表層地盤の解析部分を使いやすく改良しました。最近では耐震診断の実務プロジェクトが増えてきています。

東電設計(株)様の耐震診断手法の概要
   

特許出願中の解析手法を組み込んだ簡易液状化解析プログラム「LiQSMART」を販売中。

建築技術部では、この「累積損傷度を考慮した液状化解析手法」を組み込んだ簡易液状化解析プログラム「LiQSMART」を2002年10月から販売しています。

「累積損傷度」という考え方を使えば、液状化の解析は簡単にできるのではないかというアイデアは、東京電力からの委託研究の中から出てきて、そこに(株)竹中工務店も加わってこの手法を開発しました。そのため、3社共同で特許を出願中です(特許出願2000-19352)。

液状化といえば、有効応力解析が主流ですが、非常に解析手法が複雑でモデル化も難しいのが現状です。FEMで地盤をどう表現するか、非線形パラメータをどう設定するかなど、利用者が高度な専門知識を持っている必要があります。このあたりをかなり簡略化でき、なおかつ詳細な手法と同等でかつ安定した結果を手に入れられるのが、この手法の画期的なところです。

LiQSMARTは、広く用いられている全応力解析プログラム「SHAKE」のデータに、液状化強度曲線のデータを追加するだけで解析データを簡単に作成でき、また、N値と地盤種別しかわからなくてもデータ作成支援機能により解析ができます。液状化判定の基準は建築だけでなく土木の指針も用意し、幅広い分野に対応できるようにしてあります。 当社の技術力をアピールするためにも、今後こうした開発ソフトウェアの販売は続けていく予定ですが、アフターケアなど課題もあります。そうした面でCRCにご協力いただければと考えています。

  地震応答解析プログラム「LiQSMART」の詳細はこちら (PDFファイル )



Linuxへの対応と三次元プレゼンテーションツールの必要性。

CRCに今後ぜひお願いしたいのは、各ソフトウェアのLinux対応です。Linuxへの流れはもう変えられないと思います。

ただ、クライアントPCで、解析のような重い計算をやるのが本当に良いのかという点についでは議論の余地があります。いまのWindowsというOSはそんなにパーティション(※)が完璧なのでしょうか。やはり、計算専用機とクライアントPCは別にしておいたほうが安定した解析ができるような気がします。

もう1つ、最近は解析結果を提示する際に、よりわかりやすく見やすいことが求められるようになってきました。3次元プレゼンテーションやアニメーションなどのツールをより一層充実させてください。

※パーティション : コンピュータを作業負担の変更に応じて調整する概念。1台の大型サーバを必要に応じてサイズ変更が可能な多くの単位に分けるもので、ハイエンドのタスクに適している。

インタビューを終えて │ 後 記 │Editor's notes

構造設計や耐震診断・補強等の実務プロジェクトや研究分野で数々の実績を踏み、高度な技術を基にして社会的インフラ整備に貢献されている東電設計(株)建築技術部。導入いただいているDYNA2E、DINAS、FINAS等を長年にわたり実務や研究に使われていることに感謝すると同時に責任も感じております。ソフトの機能アップや新しい知見に基づくソフト開発など、様々な貴重なご意見をいただいており、長年にわたる協力関係をこれからもさらに強くしていただければ、と思っております。

最後に太田様、小山様、吉田様には大変貴重なお時間を頂戴致しまして誠にありがとうございました。今後ともCRCに対する貴重なご意見、アドバイスをいただきますようお願い申し上げます。(聞き手:CRC亀岡)


名称 東電設計株式会社
 
http://www.tepsco.co.jp/
本社所在地 東京都台東区東上野3-3-3
設立 1960年12月20日
代表取締役社長 今藤健征
資本金 4,000万円
売上高 192億円(平成13年度)
従業員数 846名
主な事業概要 土木、建築、電気・通信等に関する総合コンサルタント
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