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財団法人 地域 地盤 環境 研究所 様地盤シミュレーション解析への取り組み
-地盤の変形・応力解析にFEM解析ツールを積極的利用-

お話を伺った方

地盤解析グループリーダー :長屋淳一 様技術コンサルタント部
地盤解析グループリーダー :長屋淳一 様

 (財)地域地盤環境研究所(地盤研究財団)は、1960年に大阪土質試験所として設立された。当初は、大阪府やその近辺での土質試料の基本的性質の試験、すなわち「土質試験」を主要業務としていた。その後、官民各方面からの委託研究や、国内外の大学との共同研究を通じて、次第に地盤工学に関する高度な調査、解析、モデル実験、現場計測、施工管理などへ業務内容を広げてきた。こうした流れを受けて、1999年10月には財団名を現在のものに変更。わが国では大学に並ぶ唯一の非営利の地盤工学研究機関として内外から高い評価を受けている。
地盤研究財団では、地盤工学上の諸問題を解決するために、常に現場において地盤の挙動を計測・観察するとともに、大学などの研究機関とも連携して、最新の情報を収集・提供し、複雑な地盤工事のなかで、経済的かつ安全な施工法を模索している。

同財団では、地盤工学におけるコンピュータ、通信処理技術の導入と開発にいち早く取り組み成果をあげてきた。地盤調査情報、地震情報、地下水情報、計測管理情報などのデータベースを形成するとともに、地盤・地震・地下水などに関する情報を取りまとめる以下の4協議会の活動を事務局として支援している。

関西地震観測研究協議会
平成3年に発足しており、関西地域の各機関に地震計を設置して観測をしてきた。兵庫県南部地震では貴重なデータを得ている。

地下水地盤環境に関する研究協議会
平成5年から関西エリアの地下水の情報、水位、水質、透水性などのデータを集めている。

関西地盤情報活用協議会
「関西地盤調査情報データベース」には、大阪・神戸・京都地域を中心に約3万本のボーリングデータが蓄積されている。このデータベースの継承と有効活用を目的とする。

大阪湾地盤情報の研究協議会
大阪湾ベイエリアのボーリングデータをデータベース化し、公開している。 地盤研究財団では、地球環境が重視される時代の要請に応えて、地盤工学とその関連技術の研究開発を通じて、より一層地域社会に貢献していこうとしている。

地盤研究財団では、地球環境が重視される時代の要請に応えて、地盤工学とその関連技術の研究開発を通じて、より一層地域社会に貢献していこうとしている。

財団法人 地域 地盤 環境 研究所(以下 地盤研究財団)の地盤解析グループでは、地盤の掘削や盛土などによる地盤の変形・応力状態を予測し、工事の安全性を評価する業務を行っていますが、その際コンピュータを用いた地盤挙動の数値解析シミュレーションが実施されています。こちらでは、CRCの2次元/3次元地盤FEM解析システム「Mr.SOIL3D」をはじめ、構造物・地盤連成地震応答解析システム「DINAS」等のシステム製品を導入、ご活用いただいてています。業務的に比重を増しつつある数値解析シミュレーションについて、FEM等さまざまな解析ツールを駆使して、解析業務を進めている同グループリーダーの長屋淳一様にお話を伺いました。

シールドトンネルのセグメント設計方法を見直し、建設コスト低減につなげたい。

近年施工の大深度化に伴い、シールドトンネルはますます硬い地盤に適用されつつあります。そういうところでは掘削後に周囲の地盤にかかる荷重は、軟らかい地盤よりも少ないと考えられます。ところが、現在のトンネルの標準設計仕様ではそうしたことはあまり考慮されていません。そこで設計上の荷重が実際より過大になっている場合もあると思われます。この荷重の条件設定をもっと突き詰めていき、設計方法を見直してセグメントを薄くすることができれば、建設コストの低減につながると考えています。
工事の発注者に設計方法見直しの重要性を伝え、現場計測データの収集にご協力いただいています。これらのデータをもとにFEM解析を行い、解析結果が計測データとどう違うのか、なぜ違うのかを明確にしていきます。

シールドトンネルのセグメント設計方法を見直し、建設コスト低減につなげたい。

近接構造物影響予測に実現象をシュミレートできる荷重モデルを研究。 

いま注目しているのは、近接施工の際のシールド周囲の変形です。地下深部の利用が進み、既設の橋脚のすぐそばにトンネルを掘るというケースが出てきています。従来は、トンネルを掘った場合、応力解放によりトンネルの周囲の地盤から内側へ向かって圧力がかかり変形すると考えられています。観測された実現象では、近接の橋脚が数値計算とは逆方向に変形している場合もあります。シールドトンネルの場合、セグメントの外側に裏込注入といって隙間を埋める材料を入れますが、その注入時の圧力によってトンネルの外側に向かって作用する力が発生することも原因の一つとして考えられます。
現在、通常のFEM解析手順の荷重載荷の考え方では、こうした状況をそのまま解析できません。それには現象を適切に表現する荷重モデルが必要となります。そのため施工条件を予測解析に組み込むための荷重モデルを追求しているところです。

研究レベルでは主流だが、実務レベルではまだ少ない3次元解析。

FEM解析は解析対象のモデリングには時間がかかる場合が多いですが、Mr.SOIL3Dはモデリングの機能が充実しているので、たいへん役に立っています。トンネルの荷重問題などに本格的に取り組んだのもMr.SOIL3Dを導入してからです。また、私たちのグループでは、地下水解析や応力浸透連成解析など自ら開発したソルバーが数多くあります。それらのソルバーにMr.SOIL3Dプリポストシステムを利用しています。

実は、地盤モデルを含む3次元解析については、まだ実務レベルでのニーズが少ない状態です。3次元はデータの収集もモデルの作成も手間がかかるため、どうしてもコストが高くなるので、2次元で検討してくれというケースがほとんどです。ただ、学会などでは3次元解析が主流となっています。

私たちも3次元メッシュモデルとなるとソフトウェアのパフォーマンスを活かすよう習熟するところまで行っていない部分はあります。トンネルの奥行き方向に均一というような断面だったらすぐできるのですが、複雑だとなかなか難しい。その場合、CRCにメッシュ作成のみ依頼し、その後のコンサルティングに注力したほうが時間の節約になる場合もあります。今後、3次元の複雑な解析が増えてくれば、自分たちでモデリングも対応せねばなりません。その際は、CRCに3次元モデリングトレーニングコース等の充実をぜひお願いしたいと思います。

動的解析への取り組み。

斜面の動的解析など、2次元耐震解析を行っています。3次元動的解析については、業務的にはまだ少ない状況です。地盤解析の実務レベルではモデルがかなり複雑になることや、計算時間の問題で、3次元解析はなかなか難しいと思います。
私たちも最近動的解析の必要性が出てきており、CRCの地盤・構造物連成地震応答解析システム「DINAS」も導入して取り組んでいます。

解析ツールを活用して、精度の高いコンサルティングを。

私たちの業務では、解析モデルのベースにまず現場の計測データがあります。実際の変形や挙動がどうなっているか、何が要因かを、土質特性と照らし合わせて、どのように解析に取り込んでいくかがポイントです。
しかし、いまや高機能な解析ツールがないと、解析業務やコンサルティング業務はスムーズにできない時代になってきました。コンピュータの能力の向上で、実際に即した変形を追随できるようになっており、そうした精細なモデルのメッシュを切ろうと思うと、手作業ではとてもできません。私たちの研究所の実務レベルではただ単なる計算ではなく、計測‐モデルの作成‐解析‐考察‐モデルの修正というサイクルの積み重ねで、新しい知見や技術革新を手に入れようとしているわけですが、解析ツールを使いこなして計算時間を短縮し、結果の考察により多くの時間を割き、精度の高いコンサルティング行えるようにしたいですね。

インタビューを終えて │ 後 記 │Editor's notes
地盤解析のエキスパートとしてさまざまなニーズに対応し、コンサルティングを行う地盤研究財団の地盤解析グループ。今後のニーズのため、サポートの充実、計算パフォーマンスの更なる向上、ユーザーカスタマイズ機能の充実等のご要望も頂戴致しました。
最後に長屋様には大変貴重なお時間を頂戴致しまして誠にありがとうございました。今後ともCRCに対する貴重なご意見、アドバイスをいただきますようお願い申し上げます。 (聞き手:CRC村中)

※この記事は2002年11月15日のインタビュー内容に基づいて構成されています。


名称 財団法人 地域 地盤 環境 研究所
https://www.geor.or.jp/
本社所在地 大阪市西区立売堀4丁目3番2号
設立 1960年4月
理事長 足立紀尚(京都大学名誉教授)
理事・会長 赤井浩一(京都大学名誉教授)
理事・所長 岩崎好規
基本財産 2,000万円
主な事業概要 地盤の調査研究・試験・計測・解析、各種研究会・協議会組織への支援活動、学術研究に関わる刊行物の発行等。
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