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超音波診断装置、超音波治療装置の精度向上を目指して
PZFlexによるシミュレーションを利用

東 隆 様

お話を伺った方

国立大学法人 東京大学大学院 医学系研究科
疾患生命工学センター 医療材料・機器工学部門
教授
東 隆(あずま たかし)様

略歴・専門分野・研究テーマなど

1973年生まれ。1996年3月東京大学工学部物理工学科卒業。1998年3月東京大学工学系研究科物理工学専攻修士課程修了。2010年9月東北大学大学院工学研究科通信工学専攻、博士(工学)取得。
(株)日立製作所中央研究所を経て、2011年4月から東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻特任講師、2012年10月准教授。2014年1月から現職。

研究内容

バイオイメージング、医用超音波、超音波イメージング、超音波治療、圧電デバイス
研究室ホームページはこちら

2003年4月に発足した東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センターは、医学系研究科と工学系研究科が相互乗り入れし、基礎生命医学、臨床医学、環境科学、技術・工学などを融合した新しい研究分野の創出を目指して活動されています。
同センターの医療材料・機器工学部門で、超音波イメージング技術や超音波治療システムの研究開発に取り組んでおられる東 隆教授は、CTCの「圧電超音波解析ソフトウェアPZFlex」の長年にわたるユーザーであり、PZFlexを様々な先端的な研究で活用いただいています。
東教授には医療用超音波診断装置や治療装置の研究開発の現状と、その中でのPZFlexの利用方法についてお伺いしました。

医学と工学を融合し新しい治療装置や診断装置を開発

東京大学の医学部は大きく2つの分野に分けられます。1つは東大病院に代表される臨床医学、もう1つは細胞や生命科学現象などを研究する基礎生命医学です。疾患生命工学センターはそのどちらでもなく、医学部単独では解決できない問題について工学、薬学、理学など他分野の研究者を集めて融合的に研究しています。疾患生命工学センターには8つの研究部門があり、私の所属する医療材料・機器工学部門では医療材料や医療機器に関する研究開発を進めています。私は医療機器分野を担当しており、これまで機器工学を専門としてきたことから、超音波を使ったイメージング技術や超音波による治療システムを中心に、新しい診断装置や治療装置の研究に取り組んでいます。

超音波イメージング技術で乳がん早期検出用の超音波CTを開発中

いわゆる超音波エコーを人間ドックなどで受けたことがある方も多いと思います。超音波イメージング技術は、腹部エコーだけでなく、乳がん、甲状腺がんなどの診断にも使われています。従来の超音波診断装置は全身に使用でき、製造数が多いため価格が安いというメリットはあるものの、特定の疾患を検出するためには十分にカスタマイズされていないという面がありました。そこで疾患に合わせて最適化した診断装置を開発しようという視点で研究を進めています。

乳がんは乳房にがんがあるうちに手術で取り除き、転移を防げば死亡率を下げることができます。そこで早期発見を目指して健康診断ではマンモグラフィー(乳房用X線診断装置)が使用されますが、性能面で課題があることが分かっています。マンモグラフィーは欧米で開発され、1970年代から80年代に普及しアメリカとヨーロッパでは乳がんの死亡率を減らすことに貢献しました。欧米では乳がんは60代、70代、80代と高齢になるほど罹患率が上がります。乳房は乳腺と脂肪でできており、高齢になると脂肪の割合が増えます。脂肪が多いとマンモグラフィーでがんが発見しやすいのです。一方、日本では40代、50代に罹患率のピークがあります。年齢が若いと乳腺が多いため、がんと同じように乳腺も白く写ってしまいます。マンモグラフィーでは乳腺が多い方だと半数くらいはがんを見つけることができず、自覚症状が出るほど大きくなってから発見され、治療が間に合わないというケースがあります。

そこで乳がん専用にカスタマイズした超音波CT(ComputerTomography)の開発に(株)Lily Medtechと共同して取り組んでいます。これは日本だけでなく中国やアジアの国々でも必要とされるのではないでしょうか。開発中の超音波CTでは、スイッチを押せば自動的に3次元で必要なデータが取れることを目指しており、超音波検査技師の不足にも対応できるものにしたいと思っています。こうした機器が普及して、誰でもどこでも同じレベルで健診が受けられるようになることを願っています。

超音波による低侵襲治療が注目されている

最近の医学界では低侵襲治療への取り組みが盛んです。低侵襲治療とは、患者さんの身体の負担をできるだけ少なくして効果的な治療を行うというものです。超音波治療として、フォーカスした強力な超音波を用いた低侵襲治療があります。超音波ビームを対象部位に照射することで、焦点の生体組織のみを加熱する治療で、外科手術、抗がん剤治療、放射線治療に続く新しい治療法として注目されています。体の内部を切り開かないため外科的な手術に比べ患者の負担が少なく、投薬のような副作用が少ないのが特徴です。

現在、アメリカや日本で認可されているのは子宮筋腫や前立腺肥大、前立腺がんの超音波治療です。子宮筋腫の場合、筋腫の体積が3分の1ほどになれば十分に治療効果があると考えられるため、治療機器として認可されています。低侵襲治療で子宮が温存されるため、若い人は将来出産の可能性が残ります。がんの場合は、がん細胞を100%壊すことが必要とされ、更に周囲の組織は壊さないということがトレードオフとなっているため、実用化が難しいのが現状です。

超音波治療はそのポテンシャルに比べると、まだ普及しているとは言い難い状況です。新しい治療法として誰でも使えるような技術として確立すべく研究を続けています。

超音波で治療ができる仕組み

エネルギーは体の中で吸収されると、最終的には熱になります。超音波CTなどでイメージングする時は非常に短いパルスなので、エネルギーは小さくほとんど熱にはなりません。しかし超音波を1秒間、10秒間など長く照射し続けるとイメージングで利用する時の何倍も大きなエネルギーを入れることができます。イメージングでは0.1度程度しか上がらなかった温度が、千倍の100度くらいまで上げることが可能になります。

また、超音波は圧力をプラスやマイナスに変動させることができます。圧力がマイナスになると沸点が下がり、更に下がって真空になると、液体に溶けている物体が気体になって出てきます。これは瞬間的に沸騰することと同じで、細胞の中に溶けていたガスが沸騰することで細胞を壊すことができます。こうした圧力変化、専門用語ではキャビテーションという現象を使って腎臓にある結石を砕いたり、がん細胞を粉砕したり、そういう機械的な作用に利用することができます。

物体に熱を与える物の多くは、例えば半田ごてのように表面に接触しているところが最も高温で、中にいくほどだんだん温度が下がっていきます。超音波はデバイスから少し離れたところに最も温度の高い部分が来るように設定することができ、表面に影響を及ぼさずに中の物体だけを壊すことができます。超音波を当てる精度が上がればピンポイントで狙ったところだけを壊すことが可能となります。その精度を上げるために様々な研究を行っています。

一体化した装置の外観

図1 超音波の可視化により照射精度を上げる研究

PZFlexの利用の変遷と今後期待すること

1998年に日立製作所に入社し、シミュレータを用いた医療用の超音波デバイスの開発に携わることになり、当時、米国から導入したばかりのPZFlexを使うことを任されました。

超音波プローブというデバイスは、電圧をかけるとピエゾ素子で歪が生じて超音波を出し、逆に超音波がはね返ってくるとそれを電気信号に変換する、いわばスピーカーとマイクを兼ねたような物です。PZFlexなどのシミュレータが登場する前は、粘土のようなものを焼き固めてピエゾ素子を試作し、大きさによってどう変わるか、周囲に何を付けるとどう変わるかなどを確認して性能の良い物を選んでいました。これでは時間もコストもかかるので、試作する前にシミュレーションで条件を絞り込むことにしました。例えば100通りあった条件を10通りくらいまで絞ろうということです。試作で実際に100通り作っていたわけではないのですが、正解からほど遠い条件ではなく近い条件で試作することができるようになりました。

その後、超音波治療に使えるような熱計算の機能がPZFlexに追加されたので、研究で使い始めました。大学に移ってからはPZFlexの音響放射力(Radiation Force)というオプションを使っています。これは治療用のビームがどれだけ組織を押す力があり、組織を変形させるかを計算します。この計算が可能なツールはまだ他にありません。

現在はフリーの超音波シミュレーションソフトもありますが、ピエゾ素子のデバイス設計に使用するシミュレーションはPZFlexしかできません。

PZFlexには材料データベースの提供を今後期待します。医療機器の場合、生体適合性が確認されている材料を使う必要があり、使える材料が限られます。材料データベースがあればその中で様々な材料を試せて、便利になるのではないでしょうか。

PZFlexの音響放射力解析で治療機器の精度向上を目指す

先ほども述べたようにPZFlexで音響放射力の解析を行い、超音波治療で狙った領域で何%治療が終わったかを可視化する技術を作ろうとしています。超音波治療が終わると組織は硬くなります。生の肉を焼くと硬くなるのと同じことが人間の体内でも起きているのです。柔らかければ少しの力で大きく変形しますが、硬くなれば同じ力では変形しなくなります。音響放射力をずっと当てて振動を起こし焼けてくると振動の振幅が小さくなります。狙ったところにエネルギーが伝わって治療が終わったということがわかれば、次の治療箇所に移ることができるので、そういう効果をモニタリングしながら精度を上げています。

Navis+を利用した属性管理事例

図2 治療中の凝固モニタ技術(音響輻射力の応用)

研究開発には、実験とシミュレーションの組合せが必要です。実験だけではノイズがあり、うまくいかないこともあります。実験でできないとそもそも無理なのだとあきらめてしまいがちですが、シミュレーションでできるとわかっていれば、もう少し頑張ってみようと思えます。ですからシミュレーションで答えが出ていることは大切です。逆にシミュレーションでできないことは実験では絶対不可能なので、やっても無駄ということがわかります

超音波を使用した研究の将来、究極のターゲットは脳

今後の研究で取り組みたいことは2つあります。1つはもう少しミクロな現象を取り扱うこと。生体は様々なサイズの物が混ざりあって大きな構造を作っています。そこで細胞膜や細胞の中の核の構造まで考えてシミュレーションできるようになると、もっと新しいことができるのではないかと考えています。もちろん計算コストは膨大になります。細かいグリッドである程度の大きさのものを見なくてはいけないので、まだ取り残されている部分だと思います。

もう1つは、頭蓋骨に包まれている脳が一番難しい対象なので、治療の技術をそこまで広げていきたいということです。脳には血液脳関門(Blood Brain Barrier =BBB)があり、アルツハイマーの治療薬などもいくら投与しても脳には直接入っていきません。ところが今、海外で治験が行われているのが、超音波を照射するとその間だけBBBに隙間ができて薬が入っていくようになるというものです。それができればこれまで開発された脳の治療薬が一気に使えるようになります。これは超音波分野では今一番ホットな研究課題です。こうした超音波の医療への応用について、これからも掘り下げて取り組んでいきます。

PZFlexシミュレーションの例

解析モデル

解析モデル

図3-1 解析モデル

シミュレーション結果

音響輻射力分布

図3-2 音響輻射力分布

横波の伝播

図3-3 音響輻射圧により生じた横波の伝播(変位分布表示)

 Displacement map

図3-4 位相のずれ

実験内容の解説

水槽に生体組織を模擬したゲルを入れ、その中に肝臓を置いて横から超音波を照射し、強度を時間的に変化させます。治療用超音波はかなり強いエネルギーを入れるので、組織を左から右にずっと押していることになります。押す力を弱くすれば生体がバネとなって復元する力が働きます。押す力と復元する力を交互に変化させると、組織が振動することになります。

中央に治療用の超音波を当てた時に変形が周囲にどう伝播しているか実験結果を可視化し、これをPZFlexでのシミュレーションと比較すると、実験で起きた現象が理論的に再現できているかどうかがわかります。この実験の場合、変動させる周波数は200Hzですが、これも先にPZFlexでシミュレーションし絞り込んでおきます。

PZFlexについてはこちらから
http://www.engineering-eye.com/PZFLEX/index.html