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上智大学 理工学部 情報理工学科 伊呂原 隆 准教授 様製造・物流の効率化をシミュレーションで検証し
人と社会にとって有益な情報システムの構築を目指す

お話を伺った方

伊呂原 隆(いろはら たかし)准教授伊呂原 隆(いろはら たかし)准教授


1970年生まれ。93年3月早稲田大学理工学部工業経営学科(現、経営システム工学科)卒業。98年3月早稲田大学大学院理工学研究科博士後期課程修了。95年~97年度(独)日本学術振興会特別研究員。98年4月早稲田大学理工学部助手、99年4月上智大学理工学部専任講師、2002年4月同助教授を経て07年4月から准教授、現在に至る。この間、95年度関東学園大学(情報科学)、95~97年度清真学園女子短期大学(情報科学)、2002年~2005年度武蔵大学(統計学)、2002年から現在まで早稲田大学(生産システム論)の非常勤講師を勤める。2006年4月~2007年3月米国・ジョージア工科大学客員研究員として在外研究を行う。主な賞に日本経営工学会「論文奨励賞」、日本設備管理学会「論文賞」。主な著書は『サプライチェーンハンドブック』(朝倉書店、共著)、『シミュレーション工学』(朝倉書店、共著)、『離散系のシステムモデリングとシミュレーション』(三恵社、共著)など。工学博士。

2013年に創立100周年を迎える上智大学は、「世界に並び立つ大学」を目指して、教育研究、奨学支援の拡充と基金の新設、キャンパスの再興を進めています。理工学部は1962年、機械工学科、電気・電子工学科、物理学科、化学科の4学科をもって開設、65年には数学科を、66年には大学院に理工学研究科を開設しました。2008年には理工学部の5学科と生命科学研究所を統合し物質生命理工学科、機能創造理工学科、情報理工学科の理工融合型の3学科に改組、さらには文理融合的側面ももつ他大学にない学際的な学部という特徴があります。
情報理工学科に所属する伊呂原研究室では、工場レイアウトや生産ラインの設計など、原材料から製品に至るまでの物の流れに関わる工程システムと、生産計画や在庫管理など情報の流れに関わる管理システムや仮想環境での各種シミュレーション技術について、離散系、連続系などのシミュレーションを多角的に教えるなかで、「生産・物流シミュレータWITNESS」を使うことで生産や物の流れを視覚的に捉え、学生の理解度の向上に役立てています。
今回は伊呂原隆准教授に、同大学におけるWITNESSの活用についてお話を伺いました。

産学両面の教育・研究を通じ、実社会で役立つ人材を育成

人間教育を重視する上智大学にあって、情報理工学科は“情報”を通して人間社会を深く理解する豊かな人材を育成することに努めています。このため低学年では数学、物理、化学、生物、情報といった理工基礎を徹底的に教育しています。
専門課程になると、オペレーションズ・リサーチや生産工学をテーマに選んだ学生は、「物と情報の流れの最適化」の研究に取り組みます。研究室ではモデル化から学生が行いますが、最初から1人ではできないため、まずは過去の論文を読み教員と一緒に議論し、ある程度理解したらWITNESSを使いより具体的な研究に取り組むという流れです。
情報理工学科は大きく人間情報、コミュニケーション情報、社会情報、数理情報の4つの領域に分かれています。人間情報領域では、人間の音声の発声の仕組みや難聴の方でも聞き取りやすいシステムはどうあるべきかといった研究を行っています。例えば、自動音声の行き先表示システムではどのくらいの音程で発すると難聴者でも聞き取りやすいのかというような、人間に貢献するための情報のあり方の研究を行っています。その根本に脳があることから、脳そのものの研究をしている教員、生命科学の教員も入って生命体としての人間の研究を情報の面から研究する、いわゆる人間情報の研究を行っています。
私の担当する社会情報領域は、情報を企業、組織、社会の基盤として捉え、その効率的な活用を図り、人と社会にとって有益な情報システムを構築することを目的としています。その中で当研究室は、生産システム、物流システムを研究対象に、大学の研究室でありながら産業界との繋がりを深く保ち、実用的な研究を心がけています。このため学生も企業から実データをもらい研究するとともに、その成果を論文発表するなど産学両面にわたって研究活動を行っているところに特徴があります。

シミュレーション結果を目に見える形で描けるWITNESS

商品は販売形態によって見込み生産や受託生産がありますが、いずれにしても生産者側は生産計画を立てます。それがいい加減だと納期が遅れたり、在庫をたくさん抱えてしまうからです。計画を立てるとそれに基づいて部品の調達、工場内の物流の問題がでてきます。そこで工場の設計、建設、機械の配置、バッファの決定などをしなければなりません。つまり工場内の生産と物流効率化のための工場レイアウトが必要となります。
次に工場で製造された製品をユーザーに届けなければなりません。配送先は倉庫、店舗、客先へダイレクトに届けるなどまちまちですが、とにかく物流が発生します。つまり、原料や部品の仕入れから製造・流通・販売まで、製品がたどる全過程の情報と物の流れを管理することが求められます。そのための経営手法として、今日ではSCM(サプライチェーンマネジメントシステム)が採り入れられるようになりました。
こうした一連の流れをスムーズに行うには、物と情報の流れの一元化が必要です。製品の設計であれば実際に図面を描き、試作して上手くいかなければ捨てることも可能ですが、工場はつくってから捨てるわけにはいかないので、疑似的に作成して本当にうまくいくのか、物がきちんと流れるのかを見るためのシミュレーションが大切になります。そのためにコンピュータ上で仮想モデルをつくりシミュレーションしてみるということです。シミュレーションは、C言語などでプログラミングし、数値的にその結果を出すことは可能ですが、結果が数値だけでは説得力がありません。そこで必要とされるのが、誰にでもわかるように視覚的に表現できるWITNESSなのです。
シミュレーションに当たっては、一般的にはシミュレーション前におおよその順番を数理的に決める最適化を行い、ある程度の設計を行います。その後、シミュレーションによって情報の精度を高めることができるというわけです。建築分野における基本設計と詳細設計のようなもので、図面で詳細設計が描けるのがWITNESSというわけです。

大学院生のときにWITNESSと出会う

私がWITNESSに出会ったのは10数年前、早稲田大学の大学院生のときです。高校3年の時に経営にも数学、物理、化学が必要だという本を読み、経営に科学的にアプローチすることに興味を持ちました。そこで日本で最初に経営工学分野の学科(工業経営学科、現:経営システム工学科)をつくった早稲田大学に進学しました。大学では経営工学を学ぶ一方、「レイアウト研究会」に入り、実際の企業の工場の物と情報の流れの最適化を行い、その企業にプレゼンテーションするということを行っていました。 早稲田大学の大学院では当初からシミュレーションソフトウェアを使っていましたが、CTCにMATFLOWという工場の物流を視覚的に見せるソフトウェアがあることを知り、そこから工場のレイアウトもシミュレーションできるソフトウェアでWITNESS があることを知りました。使ってみるとWITNESSは非常に使い勝手がよく、モデル化もシミュレータを走らせる時の結果の表示も大変いいという印象でした。
当時、私が行っている研究で、レイアウトを改善したときのBefore、Afterを比較する際に、何パーセント改善したという数値では表せても視覚的に見せる手段がなく、どこが改善されたのかをどうしたら皆に理解してもらえるか、結果の表現方法に悩んでいたのです。そうしたときに見たWITNESSは、まさに自分が望んでいたソフトウェアであり、すごく感激したのをいまも覚えています。
上智大学へ着任した当初は、研究グループで生産システムのシミュレーションは行っていたもののマニュアルシミュレーションといって、正20面体のサイコロをいくつか振って乱数を発生させ、そこで出た数字を記録してシミュレーションをするということを行っていました。この方法では、すべて手で処理するため乱数を発生させるだけで時間がかかってしまい、いろいろと設定を変えて「ここに物が詰まる」「この設定はよかった」というところまでは、限られた時間内では教育することができませんでした。そこで10年ほど前にWITNESSを導入しました。もちろん学生はまず原理を勉強する必要があるため、最初にマニュアルシミュレーションを行いますが、残りの8割の時間はWITNESSを使ったシミュレーションを行っています。視覚的にもわかりやすく、学生の理解度、興味が高まったと感じています。

割り当てルールの作成にも最適なWITNESS

WITNESSは工場の中のさまざまな評価にも有効です。例えば、半導体工場ではウエハーを運ぶための搬送台車がかなり走っていますが、それをどう割り当てるといいのかという割り当てルールの研究です。他の生産システムでもフォークリフトやAGV(自動搬送車)などが走っていますが、AGV1台に複数の製品を積載することも多々あります。1台のAGVに4製品載せるとき、どれから先に載せ、どれから先に降ろすか、4つ積めるところで2つしか積んでいない場合、先に積んでいた2つを降ろしてから4つ積むのか、降ろす前に2つ積む方がいいのかなど、かなり複雑なルールになります。このようなルールの検証は、最適化という枠組みでは捉えきれないので、シミュレーションが必要不可欠です。
積荷が重いものを運ぶ工場では、AGVを早く動かすことができません。このため無駄な動きをできるだけ少なくする必要があります。一方、半導体の搬送台車のように非常に動きが早く台数も100台以上あるような工場では、搬送をいかに手際よくするかが問われます。また、バッファスペースをどのくらい確保するのがベストかも重要です。
当研究室では、このような問題に対して仮想工場における最適化とリアルな工場の実データに基づいたシミュレーションの両方で検証、精度を高めるための方策を研究するとともに、数値解析とシミュレーション技術の向上を図っています。

改善には現場を見ることが大切

製造・物流工程における問題点の発見には、現場を見ることが大切です。業種によって異なりますが、加工・組立工場の場合は具体的な物があるので、工場内における製品の留まり具合、作業者の動きをみれば、どこに問題があるのか、ある程度わかります。
例えば、作業者が屈み込んだり伸びあがったりする仕草をしていれば、冶具や工具の置き場所に問題があることがわかります。部品や工具が遠くに置いてあって作業者が歩いて取りに行くようなケースはさらに無駄があることがわかります。また、バッファを見て過剰在庫を確認することも大切です。どこかのバッファに過剰在庫があれば、製造工程か物流に問題があるからです。
2009年8月に中国の工場を視察しました。世界的な自動車メーカーでしたが、その会社のシステムからしたらありえないような在庫がバッファにありました。製造ラインの一部に問題があったからです。このように在庫を見るだけでも物と情報の流れも、マシンの調子もわかります。システム、ラインは同じでも、そこで働く人が違うと同じ動きができないのです。こうしたときに物と情報の流れをシミュレーションすると、問題点が誰の目にも明らかになり、中長期的には改善が図れるのです。

望まれることは“シミュレーションをもっと手軽に”

シミュレーションソフトウェアの多くは、マシンの台数や配置をあらかじめ決めて入力してパフォーマンスがどうかを見るという方法です。しかし、最初にそれを決める際、何がベストかがわかりません。シミュレーションソフトウェアのユーザーからすると、それらの設定をより容易に変えられるようになるともっと使い勝手がよくなります。
また、いまだ中小企業においてはシミュレーションに対する敷居が高いようです。シミュレーションした方がいいとわかっていても、モデル化や解析は誰がやるのかという壁があるのです。そういう人たちがもっと手軽に使えるような操作環境が実現し、ソフトウェア価格が安価になれば、中小企業でも導入しやすくなり、シミュレーションを行うことがいかに効率に結び付くかがわかり、ひいては中小企業の生産性も向上するはずです。

いま進めている研究は環境に配慮した物流網の設計

最近取り組んでいるユニークなテーマに、国際物流における環境に配慮した物流設計網の研究があります。CO2削減が世界的なテーマになっていますが、近年、日本企業は海外で生産し日本に輸入するケースが増えています。その際、生産地から日本の最終目的地までに、物流でいかにCO2を削減できるかという研究です。輸配送計画を決める際には、数理計画法を用いるのですが、輸送キャリアによって運べる量やかかる時間が異なるので、それらすべての選択肢のなかから最適なケースを選ぶという最適化問題でもあります。
具体的には、ある製品について上海から日本までの物流を対象に、国際物流と国内物流の最適な物流の在り方、ルートを探ろうというものです。まず、国際物流では飛行機と船で運ぶことを前提に、ユーザーのニーズに合わせて荷をどう振り分けるかということです。当然、飛行機の方がCO2の排出量が多いので船のほうが環境にいいものの、船は時間がかかります。納期に余裕がある製品は船にしますが、余裕がない製品は飛行機になります。しかし船であっても、日本の各地に個別にコンテナで運んだのでは積載効率をはじめ、環境、コストの面で問題があります。
例えば、東京、大阪、九州まで国際物流するものをまとめて九州へ輸送、そこから東京と大阪へは国内輸送にします。これにより国際物流は3ルートから1ルートに減らすことができます。国内輸送はトラックと鉄道の2ルートから納期、荷物のまとまり度合いによってCO2排出量の少ない鉄道を第一に、鉄道を使えない荷物についてトラックを使うという考え方です。荷物の量、納期、キャリアの選択など物流一つを取っても決定変数(選択肢)が非常に多く、最適解を求めるのは意外と大変なのです。この物流設計網の研究にはWITNESSは用いていませんが、学生も非常に興味を持って取り組んでいます。

これからはサービスサイエンス分野での活用も

これだけ効率化が叫ばれている今日ですが、製品自体の設計は日々見直されていても、大企業においてさえも意外と生産・物流システムのボトルネックが検討されていないのが実情です。わかっていてもとりあえず動いているし、検討する時間がないというわけです。また、変更するのが大変だということもあります。だからこそ最初から生産・物流システムの在り方についてきちんと検討することが大切なのです。
また、これまでWITNESSは製造・物流の分野で多く利用されてきましたが、製造・物流に限らずさまざまな場面に応用できるソフトウェアなので、病院システムや小売店など、サービスサイエンスの分野にもっと使われてもいいのではないかと思っています。当研究室においても、今後そうした新しい分野にチャレンジしていきたいと思っています。

迅速かつ丁寧なサポートと高度な技術力を有するCTCの安心感

CTCとは十数年のお付き合いになりますが、実験で使っていて不具合が生じた際に素早く対応していただけること、また、研究活動においてもわからないことを素早く調べて教えていただけるなど助かっています。あるとき学生が夜にWITNESSを使おうとして立ち上がらなかったことがありました。電話をしたら夜でもすぐに調べていただき、電話でパソコンの状況もチェックしながら不具合を調べて見つけてくれました。このときはWITNESSに不具合があったわけではなかったのですが、そうしたサポートも使う側にとっては大変助かります。
もう1つは、シミュレーションの学術的、基礎的な本である『離散系のシミュレーションモデリングとシミュレーション研究』(三恵社刊)の1章の執筆を担当されたように、CTCの技術者の技術レベルが高いということがあります。私もCTCのユーザーカンファレンスやセミナーで講演をしましたが、「普段行っている研究をそのまま発表してください」と、本当にいいことを世の中に伝えていこうという姿勢をもっています。学術サイドにいる人間として付き合いやすい会社、気持ちのいい会社だと感じています。サポート力、技術力、そして素晴らしい企業姿勢を持つCTCにこれからも期待しています。

インタビューを終えて │ 後 記 │Editor's notes
伊呂原先生には、昨年のWITNESSユーザー会、そして今年開催したレイアウトセミナーでの基調講演をしていただきました。そこで気付いたのですが、どの業種の企業でも、様々なレイアウトにまつわる問題を抱えていらっしゃいますが、残念ながらその解法が世の中にあることをご存じない方も数多くいらっしゃるということです。先生が取り組まれているテーマが、より多くの方に浸透していくことを切望すると同時に、私たちも微力ながらご協力させていただければと考えております。長時間のインタビューにお付き合いをいただきありがとうございました。 (聞き手:CTC松本)

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理工学部 情報理工学科
伊呂原 隆 准教授
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