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東京工業大学大学院 総合理工学研究科 環境理工学創造専攻
山中浩明 准教授 様
物理探査工学と工学地震学を融合し震災に強い社会環境の構築を

お話を伺った方

東京大学地震研究所 堀教授東京工業大学大学院
総合理工学研究科 環境理工学創造専攻
山中研究室 准教授 山中 浩明 様

【専門分野】
強震動地震学  物理探査工学  地震工学
【現在の研究課題】 
人工地震および微動による地下構造探査
強震動特性の評価に関する研究
波動伝播の数値モデリングに関する研究

【略歴】
1983年 早稲田大学理工学部資源工学科卒業
1989年 東京工業大学大学院総合理工学研究科社会開発工学専攻博士課程
修了。工学博士
1989年 日本学術振興会特別研究員
1990年 南カリフォルニア大学研究助手
1991年 鹿島建設(株)研究員
1995年 東京工業大学助教授
2005年 物理探査学会賞受賞

【所属学会】
日本地震学会 、 物理探査学会 、 日本建築学会 、 日本地震工学会 、 自然災害科学学会 、 地盤工学会 、 応用地質学会 、 震災予防協会 、 Seismological Society of America 、 Environmental and Engineering Geophysical Society 、 Society of exploration geophysicists

【編著書】
『地震の揺れを科学する-みえてきた地震動の姿』(東京大学出版会刊)

東京工業大学は、およそ130年の歴史を有する我が国を代表する理工系総合大学です。すずかけ台キャンパスの環境理工学創造専攻が属する総合理工学研究科は、1975年に発足した学部を持たない大学院独自の研究科です。環境理工学創造専攻は、同研究科の11専攻のひとつであり、1998年に前身の環境物理工学専攻を発展的に改組して創られたものです。環境理工学創造専攻は、基幹講座、協力講座、外部連携講座から構成されており、理学・工学・農学・社会科学など多岐にわたる専門分野の教員が共同し、学際的な雰囲気の中で新しい環境学を創造するための研究活動と総合的環境専門家を育成するための教育を行っています。

山中研究室は、地盤環境や自然災害を考える上で重要な地質構造および物性の探査に関する研究を現地観測とシミュレーションによって行っています。特に、最近は、地震防災や耐震設計のための強い揺れ(強震動)に関する新しい研究分野である強震動地震学の研究も進めており、各界から注目されています。

今回は山中浩明准教授に、地盤の物理探査や強震動の数値シミュレーションによる解析的研究などについて伺いました。

教員も院生も多様な分野で構成

東工大はそれぞれの学部が大学院を持っており、大学院生は各学部出身者が多数を占めています。しかし、環境理工学創造専攻は独立大学院のため東工大の学部出身者は3~4割で、残りは他大学の出身者です。また、通常、大学院は土木工学専攻の場合、土木工学科の学生が進学してきますが、環境理工学創造専攻の学生は土木工学、地球科学、建築学、物理学、化学、数学、農学などの理工系の多様な学科の出身からなり、なかには社会学などの文系出身者もいます。一方、教官も理工学のみならず環境アセスメントや環境政策など幅広く、従来の領域を超えた学際的研究・教育を行っています。

山中研究室には、地球科学、土木・建築、物理、情報,さらに,半導体をやっていた人もいます。このため修士課程では、初めの2~3ヵ月は輪講という形でこれから研究を行う分野の最低限の知識を習得し、その後はきめ細かくつくられたカリキュラムに沿って各自が興味をもっている分野を学ぶ仕組みになっています。また、山中准教授は、東工大にある21世紀COEプログラムの中で東工大全体で地震工学関連の教官20人程度で組織されている都市地震工学センターのメンバーでもあり、山中研究室では、実践的な地震工学研究も進めています。

地震と物理探査の2つをキーワードに理学と工学の境界領域を研究

山中研究室は、人間社会に関係する地下の物理探査やその環境の評価に関する研究を行う物理探査工学と、地震防災や耐震工学のための工学地震学を柱に、近年注目を集めている強震動地震学の研究も活発に行っています。いわば地球科学や地震学という理学と耐震や防災といった工学の間の境界領域的な研究をしています。
地震学には、理学的な興味で地震を研究する地震学と地震学の知識を使って地下構造を調べる応用地震学がありますが、当研究室は応用地震学で、地下構造を調べる有力な手法の1つとして物理探査技術の研究もしています。同時に、地震学を耐震工学や地震防災に役立てるために強震動地震学の研究も進めています。
物理探査はいわゆる同定問題であり、電磁波を使った非破壊試験と基本的な考え方は似ています。このため地球の電磁気的な構造を知りたい人は電磁波を使い,方程式はマックスウェル方程式を、力学的な構造を知りたい人は、地震波を使うので,波動方程式を用いています。

耐震工学では、建物を設計するときにどの程度の強さにすればいいかが1つの鍵になります。原子力発電所並みの強度にすれば壊れないものの過剰設計になり、人が住むためには快適ではなくなります。耐震という観点から、どの程度の強さの構造にすればベストなのかは、その構造物をつくる場所によってまちまちなので難しいのです。

そうしたときに、その場所、その建築物の耐震強度を評価する際、応用地震学が必要になります。例えば、大きな地震のときに横浜と埼玉で揺れがどのくらい違うのかを評価して、耐震設計をする側にその情報を与えれば、安全かつコストパフォーマンスに優れた耐震設計が可能になります。最近は、免震構造を取り入れる高層ビルが増えていますが、これには動的設計が必要となります。そのときに地震学の知識に基づいた地盤モデルで大地震時の揺れを評価すれば、耐震設計に役立てることが可能です。つまり、山中研究室の研究は理学と工学の中間領域であり、まさに学際領域ということができます。

図1 研究分野 図1 研究分野

強震動地震学の進展が大地震に強いインフラをつくる

1995年に発生した兵庫県南部地震は、日本国民に大きな衝撃を与えました。兵庫県南部地震では広範囲に強い揺れがありましたが、建物の被害が特に大きい地域は非常に狭い帯状の部分に分布していることがわかりました。なぜ、あれほど強い揺れが起こったのか、その中で大きな震災の帯はどうしてできたのか。兵庫県南部地震を機に、強震動地震学が注目されるようになりました。

強い揺れがなぜ生じるか、強い揺れを発生するファクターを研究するための科学が強震動地震学です。新しい分野ですが、十勝沖地震や中越沖地震などから社会的に強い揺れへの関心が高く、日本地震学会に強震動委員会がつくられるなど学会でも注目されています。
強震動地震学が注目される理由はいくつかあります。

1つは地震予知が実用化していないことです。予知の研究は少しずつ進み、今後30年以内の大規模地震の発生確率を評価する長期予測は進みましたが、具体的にどの地域に近い将来どの程度の地震が発生するか、しかも、それが天気予報程度の精度で予測できるという短期地震予測はまだまだです。しかも、仮に予知はできたとしても地震が発生すれば、揺れは生じます。緊急地震速報の精度が上がっても揺れは確実に来るし、兵庫県南部地震のような直下型地震の場合は、P波とS波の時間差がないため避難する時間的余裕は少なくなります。

もう1つは、仮に予知がもっと進んだとしても、人は事前に避難することで助かるものの、社会インフラは逃げるわけにはいかないので壊れてしまうということです。地震があった後でもインフラを持続的に使うためには、インフラそのものが揺れに対して強くなければなりません。強震動地震学は、こうした持続的な社会を構築するための実用的な側面もあり、地震学の社会貢献ということで重要なテーマになっています。日本ではすでに5,000地点を超える強震動観測体制が整えられ、関係機関の即時対応や地震動特性の把握に用いることができるようになっています。同時に、強震動を感知してガスを瞬時に遮断するガスメーターが利用されるなど、生活に浸透しつつあります。将来は、強震計の観測情報に基づいて、危険物を扱う工場の機械を自動停止したり、建物内部を含めたきめの細かい揺れの分布を把握したりすることで大きな地震時の際の即時対応に利用されるなど、震災に強い社会環境づくりに役立つことが期待されています。

 

(強震動については、東京大学出版会から『地震の揺れを科学する-みえてきた地震動の姿』を出版していますので、ご興味のある方はご覧ください。)

微動計測で地球内部の地盤構造を知る

強震動を解釈・理解するためには、まず震源と地盤構造を知らなければなりません。地震動を知るためには地球内部の構造を知る必要があるため地盤構造を探査する方法を研究し、その上で地盤構造の違いによってそれがどう強い揺れに影響を及ぼすかという2本立ての研究をしています。特に、P波の後にくる横揺れの大きさは地盤のS波速度に関係しており、S波速度、すなわち、地盤の硬さを調べることが重要です。それは地盤が硬いところと柔らかいところでは揺れが違うからです。

具体的にはS波速度の分布を調べることで、地盤の硬い柔らかいがわかります。物理的調査方法はいろいろあります。山中研究室では,地面が24時間常に非常に小さな振幅で振動しているので、その小さな揺れ(微動という)を観測することで地球の内部を調べるということに注目しています。

複数の場所に測定器を配置したアレイで1-2時間微動データを取ればある程度のことはわかります。100メートルの距離を揺れが移動する時間がわかれば、伝播速度が分かります。もちろん微動は、地震ではなく,車,地下鉄,工場の振動など振動源は雑多です。これらの振動源による揺れは地震観測にとってはノイズですが、山中研究室はそのノイズからその地域の地盤を知り、地盤の違いによる地表面の振動がどう異なるかを研究しているのです。

日本で微動を工学的に使おうという目的で研究を始めたのは1950年代であり、日本が最初といっても過言ではありません。この分野の研究は、質量ともに日本が世界をリードしています。

微動を知ることで地盤モデルがつくれます。例えば、浅い部分にS波速度の小さいものがある、その下やまわりに速度の大きな地層がある。それが分かれば数値計算で地震の揺れを評価することが可能です。

山中研究室では、兵庫県南部地震を機に、首都圏における地盤の微動調査を始めました。今までに、他機関による観測もあわせて、約二百数十地点で微動のデータが集まりました。これにより地震波の伝わる速度がわかり地下構造が分かります。この調査を始めた理由の1つは、首都圏で微動調査をすることで、首都圏の地下の3次元モデルを作ろうと思ったからです。

例えば、S波速度3km/sec程度を有する岩盤を「地震基盤」と呼んでいますが、東京でいうと高尾山のあたりの地表でみることができます。しかし、都心だと深さ3キロ程度、横浜や千葉の東側の基盤の深さは4キロです。「地震基盤」という視点で首都圏を見ると、東京は盆地構造になっているのです。

このモデルを使って強震動伝播のシミュレーションを行いました。伊豆の中規模地震の断層モデルを作り、3次元シミュレーションで複雑な盆地をどう伝わるか調べ、10年ほどで関東一円のモデルを作り終えました。

最近、わが国では、首都圏直下に地震の断層モデルを仮定し、直下地震が発生したと場合の揺れがどういうふうに伝わるのか、どう揺れるのか、それに基づいて死者数、帰宅困難者数を算定するということが行われています。これも地盤や地表の揺れの大きさの評価が出発点です。自治体の被害想定の策定にも協力し、千葉県、神奈川県は私たちのつくった地盤モデルを使用しています。このように、山中研究室の研究では実際の問題に活用できることを目標にしています。

図2 関東平野の強震動シミュレーションの例 図2 関東平野の強震動シミュレーションの例

耐震解析に重要な固有周期と卓越周期

構造物には、平屋の家屋から超高層ビル、原子力建屋などの大型構造物、また、免震構造物や制震構造物まで、その構造物の固有の揺れやすい周期「固有周期」とそのときの揺れ方「固有モード」があります。一方、地震による大きな揺れを引き起こす強震動に「卓越周期」と呼ばれるものがあります。地震の揺れがゆっくりと揺れるのか、非常に短い周期で揺れるのかは地盤や震源によって変わりますが、一般に地震基盤が深いと長い周期で揺れ、浅いと短い周期で揺れます。例えば、千葉のあたりだと地震基盤まで4キロ程度と深いので卓越周期は10秒を超えます。こういう長い揺れに、高層ビルや長大橋はよく反応します。

2003年の十勝沖地震の際、苫小牧の石油タンクが燃えましたが、この石油タンクの固有周期は約7秒ぐらいでした。東京湾岸地域にも同様のタンクがあり、東海地震でも卓越周期との共振による大きなタンクでの原油の漏れがないかが関心事になっています。このような評価に深い地盤の情報が必要なのです。高層ビルも固有周期が長く、横浜ランドマークタワーは6秒くらいの周期でゆっくり揺れます。つまり6秒くらいの卓越周期の揺れがあって固有周期と一致すると、建物は大きく揺れ、損壊を受ける可能性があるというわけです。そのため、構造物を建設する地盤がどうような周期で揺れやすいかが分かれば、設計する際にそれを考慮することが可能になります。

そこで威力を発揮するのが、ボーリングしないでも地下の地盤情報がわかる物理探査です。もちろんボーリングによる実際の地質構造を知ることは大切ですが、地中深い情報ほどそのコストが嵩むことから、物理探査のように地表面から穴を掘らないで地下を見る技術の高度化が望まれています。このため物理探査でも岩盤の深度のみならず途中の地層を調べるとともに、物理探査のさらなる技術開発を進めています。

図3 物理探査による堆積層内部構造 図3 物理探査による堆積層内部構造
(横浜市の平野部地下構造調査の結果 による)


図4 地震基盤深さ分布と地盤卓越周期分布 図4 地震基盤深さ分布と地盤卓越周期分布

将来の地震対策を進める上で重要な余震観測

中越沖地震の際、狭い範囲の中で、建物が壊れたり壊れなかったりと被害が分かれました。なぜそういう現象が起こったのかを知るために余震観測を行いました。通常余震観測では、余震の発生域を調べ,震源の断層面を推定することが重要な目的です。被災地に行って被害の多いところ、少ないところに地震計を置いて余震による強震動を計りました。すると、余震でもたくさん揺れるところとあまり揺れないところがあり、地盤の揺れの差が記録されました。そういった余震による強震動観測を大きな地震が発生した全国の各被災地で行っています。

これを始めたきっかけは、1923年の関東地震の資料がたくさん残っていたことにあります。関東地震、いわゆる関東大震災では、物のない時代なのに丹念に調べて、例えば、下町での火災がどういうふうに広がり焼けていったか時系列での調査結果があり、彼らが残してくれたデータが今日の私たちの研究に役立っているからです。今、日本には数千台の地震計があり、研究室にいながらデータを取り出し研究に利用することができます。そういったデータも後世に残りますが、研究者としてその他に何を残せるかというと、机に座っているだけではそう多くはありません。コンピュータでデータをダウンロードしてやった研究は、20~30年後の人のほうがもっとうまくやるかもしれません。今だからこそ残せるものは、今起こっていて将来には消えてしまうものではないかと思ったのです。余震データというのは、今とっておかないと10年後、20年後には取れません。きめ細かい観測点配置での余震による強震動データを蓄積していくことで将来の地震防災研究に役立つものと思っています。

写真5 新潟県中越沖地震における余震観測 写真5 新潟県中越沖地震における余震観測

理論を理解する上で不可欠なプログラム開発

従来の物理探査は、地盤を調べればそれで終わりでした。しかし、地盤を調べた結果がこんなに有効に活用できるということを世の中に知ってもらうためにもシミュレーションは不可欠です。このため山中研究室では、現地での実地観測、そのインバージョンやデータを処理する、その結果を使って強震動のシミュレーションをするという3つの側面から研究活動を行っています。

今、地球シミュレータがありますが、東工大には「TSUBAME」という超並列マシンがあり、3次元の差分方程式を使い波動計算を行っています。また、遺伝的アルゴリズムやヒューリスティック探索法を用いて、微動などの物理探査データの逆解析なども行っています。そのためのプログラムのほとんどを自分たちで開発し、コーディングしています。自分でプログラミングすることで理論を理解できるし、プログラムを並列化するときにある程度コーディングがわかっていないとできないからです。今はEXCELがあれば微分方程式も解けるし多くのことができます。しかし、EXCELだけだとプログラミング的思考ができなくなってしまいます。今の学生はプログラムを使う能力はすごいと思いますが、プログラミング的思考をするということは、中身を理解する上で欠かせません。

優れたインターフェース開発でCTCへ期待

今のコンサルタント業界は、地盤を調べる人、計算をする人、地震動を評価する人と分野ごとに細分化されすぎているように思います。CTCには、地盤調査から地震動の評価までトータルに活躍できる人を採用するなり育てていただくことを期待しています。なぜかというと、計算だけやっているとモデルパラメータに入力ミスがあった場合に、間違った計算結果に気がつかないことがあるからです。また,数値計算の結果から、実際の現象を理解するための重要な鍵を見出せる人が必要です。モデルは自然のある側面だけを抽出したもので、私たちが理解できない自然のメカニズムが沢山あるからです。

もう1つは、我々は自分たちでプログラミングする際、物理現象であるコアの部分は作りますが、I/Oやグラフィックなどは個人で作るレベルを超えているので、そういう可視化の部分でいいものを開発、提供いただけるとありがたいと思っています。また、我々が作ったプログラムがありますが、それは自分たち用に作っているため、広く使っていただくためにはインターフェースをよくする必要があります。そうした部分をうまく作っていただける機会があればぜひ協力してやりたいと思います。そういうところで大学と企業が協力体制を結べれば、統合されたシステムとして応用展開が図れると思いますので期待しています。日本の防災関連技術は非常に進んでいます。発展途上国への援助にも使いやすい防災技術は有益で,わが国の国際貢献のためにも、こうした要素技術の応用展開が必要であると思います。

インタビューを終えて │ 後 記 │Editor's notes
山中先生には、当社で実施している“深部地下構造のモデル化の研究”に際して技術支援を賜っており、弊社および防災科学研究所と共同で学会発表を行わせて頂くなど、研究成果も上がり非常に感謝しております。また山中研究室では、微動をはじめとする物理探査データの解析やその結果を活用した地震動計算など、卓越したシミュレーション技術も保持されており、ぜひ今後も協力関係を携えて社会へ貢献したいと考えております。
長い時間のインタビューをありがとうございました。(聞き手:CTC亀岡)

大学・研究室概要 山中研究室 
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