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東北学院大学 工学部 環境建設工学科 地震地盤工学・耐震研究分野 吉田研究室
吉田望 教授 様
数値解析により地盤の挙動や液状化の解明を目指す

お話を伺った方

東北学院大学 吉田教授東北学院大学 環境建設工学科 吉田研究室
吉田 望 教授
工学博士

昭和24年7月9日生まれ。
1985年京都大学大学院工学研究科博士課程終了。
工学博士
1977年 4月: 京都大学防災研究所研修員
1979年12月: 佐藤工業(株)入社 中央技術研究所建築研究部
1981年 5月: 同 原子力室
1982年 5月: 同 地盤耐震特別研究室
1985年8月~1986年8月: Post doctral fellow, University of British Columbia
1992年 6月: 同 土木研究部
1993年 8月: Visiting Scholar, University of British Columbia
1996年 8月: Visiting Scholar, University of British Columbia
2002年 6月: 応用地質(株)入社 技術本部
2005年 4月: 東北学院大学工学部環境土木工学科教授

所属学会

  • 地盤工学会
  • 土木学会
  • 日本建築学会
  • 日本地震工学会

東北学院大学は、1886年にキリスト教伝道者の育成を目的に開設された「仙台神学校」にはじまります。1891年に「東北学院」と改称、1918年に神学科、文科、師範科、商科の4科制となり、戦後の1949年に大学となりました。1962年に工学部を新設、67年には工学部に土木工学科が設置されました。現在は、宮城県の多賀城、泉、土樋の3キャンパスに文学部、経済学部、法学部、工学部、教養学部の5学部と大学院を擁する総合大学であり、東北における歴史あるミッションスクールとして知られています。学生は毎日学内のチャペルで礼拝をし、キリスト教学も必須科目になっています。

環境建設工学科は土木工学科を前身とし、2002年に環境土木工学科に名称を変更、2006年に工学部の改組に伴い機械知能工学科、電気情報工学科、電子工学科とともに環境建設工学科となりました。
環境建設工学科は、地球環境の保全という大きなテーマのもと、「次世代に残すべき美しい環境を守るための建設技術とは何か」を学ぶことを目標に、環境と建設の両面から広く学習しています。もともと土木工学科を前身としているので土木工学分野の教育体制が充実しているのはもちろん、環境分野でも「バングラディシュの砒素問題」「遺伝子組み換え」「有害物質」「干潟の生物の生息」「浄水」等、多彩な領域で研究している教員も多数揃っています。

今回は環境建設工学科吉田研究室の吉田望教授に、教育方針や研究内容について伺いました。

数値解析に基づく地盤の挙動を重点に教育

環境建設工学科における地盤系の教員は、地盤地震工学の数値解析を担当する吉田望教授、地盤力学が専門で構成モデルでは日本トップレベルの飛田善雄教授、地盤工学でも実験がメインの山口晶准教授とそれぞれ専門分野の異なる教員が学生の指導と研究を行っています。

こうした環境建設工学科の地盤系にあって、吉田研究室では液状化問題を含んだ土の動的変形特性をキーワードとして、数値解析という観点から地盤の挙動を解明することで地盤地震工学の発展を目指しています。
学部学生の主な卒業論文の研究課題は、土の動的変形特性に関する研究、流動による表層非液状化層の挙動、被害想定における地震動予測の誤差、密な砂の変形特性に関する研究、不飽和地盤の斜面安定に関する研究を課しています。

土の挙動を微分方程式で書けるかが大きなテーマ

コンピュータ環境の加速度的な進展で、多くの分野では微分方程式が書ければその後の計算はだいぶ楽にできるようになってきました。しかし、私の分野では微分方程式が書けないことが問題です。グローバルな意味でどう微分方程式を書くかということに関してはずいぶんできています。例えば、土を扱う、ビオ(Biot)の式とそのFEM化の定式化については、最近でも少しいじってはいるのですが、実際上これ以上いじるところはあまりないように思います。微分方程式が書けないというのは、それを具体的に実問題に適用する際に発生します。

少しわかりやすくお話ししますと、私のフィールドでは地震を扱っていますので、微分方程式というのは運動方程式のことになるわけですが、これは、慣性力項、減衰力項、復元力項から構成されており、そのすべての項をきちんと記述でき、さらにそれを解くための初期条件と境界条件を与えることができれば問題が解けるわけです。

3つの項のうちで慣性力項の元となる質量の把握はかなり精度よくできるようになっています。しかし、減衰力項はほとんどわかっていないのが実情です。復元力項は構成モデルと呼んでもよいと思いますが、まだまだ研究段階で、非常にやっかいです。これに加え、土は均質ではなく、調査にもお金がかかりますから、適切な初期条件の設定も困難です。このようにいろいろな困難があり、土に関する微分方程式を書くのが難しいのです。

このうちでも、構成モデルは難しいし、また、解析結果に与える影響が大きいのです。構成モデルを確立させるには実験で求めるしかないわけですが、土ではこれが難しいのです。液状化の対象となる砂ですと、試料を作る際に均質に同じに作るという困難さがあります。これが保証できないと、たとえば2つの実験結果に差が生じたとき、試料が違ったのか、メカニズムが違う影響なのかを断定することができません。土の実験は自分ではできないので、信頼のおける外部パートナーと組んで行っていますが、精度の高い実験を行うことができる機関と人は限られているのが現状です。

もう1つ、地盤工学の分野では実務先行で進んできた所もあるので、基本的な原理を見直そうということも研究として行っています。たとえば、 “工学的基盤”は教科書に書いてある定義と実務で用いられている定義の間にギャップがあります。教科書的な発想では剛基盤に相当するような基盤のことを意味しているわけですが、実務ではせん断波速度で定義されるだけで力学的な意味は議論されていません。その中で、地震動の入射波として定義するのに適切な基盤であるという意識だけが受け継がれているように思います。これに対して、工学的基盤とはあるのだろうか、どのように入射波を設定したらよいだろうか、というようなことを見直しているわけです。

このほか、液状化のメカニズムの研究もしています。液状化というのは、単に有効応力が0になり、剛性が0になってしまい、液体状に挙動するという単純な問題ではありません。液状化のメカニズムを本当に理解しないと、設計に生きるような解析ができません。一部は後でお話ししますが、典型的な問題の1つに、二次液状化の問題があります。これは地震の揺れで過剰間隙水圧が発生しますが、過剰間隙水圧は一般に地盤の上方へ逃げ、逃げる過程でその周囲がさらに液状化するというものです。地震時の液状化であろうが二次液状化であろうが、有効拘束圧が0になりますので、定義上は液状化で、実務では区別せずに液状化として捉えているのが実情です。これは設計する側としては非常にやっかいな問題です。しかし、二次液状化は繰り返し液状化するものではなく、水が流れ込んだために発生することから、ある程度剛性を期待することは可能です。

図1:二次液状化した砂の応力--ひずみ関係
図1 二次液状化した砂の応力--ひずみ関係

左図1:二次液状化した砂の応力--ひずみ関係。
Case1は液状化しない材料,Case6はちょうど液状化した材料。Case2~Case5は地震による繰返しで過剰間隙水圧が0,20,40,60%上昇した後二次液状化させたケース。Case2~Case6はいずれも有効拘束圧0からの載荷だが二次液状化と液状化では応力-ひずみ関係は全く異なる。

出典:三上武子,吉田望,小林恒一(2007):二次液状化による変形係数の変化,第42回地盤工学研究発表会平成19年度発表講演集,pp. 1871-1872



困難な液状化の数値解析

土の挙動、特に液状化の問題では実現象を精度よく予測することは困難というのが現実と思っています。かつての地震応答解析では加速度が合えば良しとされてきました。加速度は力の釣合で求まるので、土の構成モデルが多少違っていても最大加速度はそれなりに合うものです。それが現在では変位の精度が求められるようになってきました。もう1つこれまでと異なることは、設計に用いられる入力地震動が非常に大きくなってきていることです。かつては非線形といいながらも、ある程度の変形まででした。これならば加速度、変位もそれなりの結果が得られました。しかし、液状化は基本的に地盤の破壊現象です。その際、仮に荷重の評価が5%違っているとすると、変位は非常に異なってしまうことになります。つまり、変位の予測は加速度に比べ非常に難しいということがいえます。

図2:液状化による流動による変位の定量評価のためのメカニズム図2 液状化による流動による変位の定量評価のためのメカニズム

左図2:液状化による流動による変位の定量評価のためのメカニズム。
従来は赤で示すような安定問題の取り扱いであったが、緑のような経路があることを示し、変形予測可能な範囲として、deformation criteriaと名付けた。


出典:Yoshida, N., Yasuda, S. and Ohya, Y. (2005): Two Criteria for Liquefaction-induced Flow, Proc., Geotechnical Earthquake Engineering Satellite Conference, Osaka, Japan, pp. 109-116

例えば、液状化の事例で一番よく知られているのが、1964年の新潟地震で発生した新潟県川岸町のアパート倒壊です。鉄筋コンクリート4階建ての県営アパート8棟のうち1棟が基礎ごと完全に横倒しになり、その他の棟もすべて傾斜しました。これは液体状になった地盤が、建物を支えきれずにそのまま傾き倒れたものですが、この8棟の変形をすべて予測できるとはとても思えません。1つには初期条件すなわち、各棟ごとの条件の違いを設定することの困難さもあるのでしょうが、微分方程式がきちんと書けていないことの影響も大きいと思います。1991年に当時の地質工学会で一斉解析を行いましたが、どれも合っているとはいえませんでした。

ただ、誤解されないようにいっておきますが、難しいから数値解析はだめだというつもりは全くなく、経験のある技術者が行えば十分信頼のある結果を得ることができますし、相対比較をするということで設計に十分生かして使える武器であると思っています。

写真1:新潟地震で発生した新潟県川岸町アパートの倒壊(1964年) 写真1 新潟地震で発生した新潟県川岸町アパートの倒壊(1964年)
出典:EQIIS Image Database Niigata, Japan 1964,
http://nisee.berkeley.edu:8080/images/servlet/EqiisBrowse?group=Niigata1964-01

変形は液状化そのものの数値解析と過去の経験からの両面で捉えることが大切

液状化の研究は、時代とともに変わってきました。かつては液状化の発生予測が大切でした。液状化の予測をし、液状化が発生するという結果がでれば、発生しないように対策をするという発想でしたので、液状化以後の挙動は設計では必要とされていなかったわけです。
それが1995年の兵庫県南部地震以降、性能設計が導入され、液状化の発生を許容した設計も可能になってきました。つまり、液状化しても構造物の機能維持ができればよいわけです。性能設計に対しては地盤でも変形予測が求められており、これが、液状化の数値解析の大きなテーマとなっています。

液状化は地盤の破壊現象の一種で、設計的にはFLで評価され、安定問題としてとらえられているようです。安定問題というのは、抵抗力があり外力がその抵抗力を超えると変形は無限大になるという問題設定です。しかし、これを性能設計にあてはめるわけにはいきません。本来は、しかるべきところで変形は止まるからです。ですから止まる量の予測ができるかが一番の問題ですが、そのためには前にも述べましたが、液状化のメカニズムをはっきりさせる必要があるわけです。

また、先に述べたように、理論の方からだけで精度よい予測をすることは困難です。これを補うものが過去の経験すなわち、被害事例と考えています。被害事例を解析してみると、どの程度合わないか、合わせるために何が必要かがわかってきます。このようなトレーニングは技術者の解析力向上のためには非常によい方法と思っていますが、理論側でも過去の経験を利用した半実験式、半理論式の組み合わせでできる解析法なども有力と思っています。

プログラムを開発することで現象に関する理解が深まる

私はこれまで、有効応力に基づく総合地盤解析コード「STADAS」をはじめ、STADASから一次元地震応答解析部分を切り出し、一次元の土中に水平方向と鉛直方向の同時入力を可能にした非線形(逐次積分法)に基づく地盤構造物の一次元汎用解析コード「DYBES3D」、等価線形法に基づく一次元解析コード「DYNEQ」、非線形逐次積分法に基づく解析コード「DYNES」、また、東京大学の東畑郁生教授との共同で有効応力に基づく一次元地震応答解析コード「YUSAYUSA-2」などのプログラムを開発してきました。

なぜ自分自身でこうしたプログラムを開発したのかといえば、先にお話ししたように、私はメカニズムを明らかにするということを研究の一番の課題としていますが、新しいメカニズムを考慮した解析を行おうとすると自分でつくるしかないからです。特に、私が地盤の研究を始めた頃は、まだ自由に使えるプログラムがなかったので、自分でつくるしかなかったという面もあります。

プログラムをつくるということは、現象がどう変化しているのかがよくわかります。そして自分で動かし、その感覚を身に付けた上で、さらにプログラムを洗練させることにしています。また、一人で作っていると、たとえば汎用ソフトのSTADASでも要素に限りがあったり、IOが弱かったりしますので、必要に応じて外部の専門家とタッグを組んでという活動も行っていきたいと考えています。

プログラムを使ってもらえるということは、自分の理論が受け入れられているということになります。自分でプログラムを作ってみるとわかるのですが、論文に載っているからといってそれだけでプログラムが作れるわけではありません。したがって、開発したプログラムは一定の条件はあるものの無償で公開しています。公開バージョンは常に自分が使っているバージョンと同じになるようにしていますので、私の論文の実証をしていただくことも可能です。ただ、自分でいうのも変ですが、研究の最先端を行くプログラムなので、一般の方にはマニュアルが難しいかもしれません。ただ、マニュアルは市販のソフトウェアに比べはるかに詳細に記述しているので、勉強のためにも役に立つと思っています。

図3:等価線形化法の改良(DYNEQ) 図3 等価線形化法の改良(DYNEQ)

上図3:等価線形化法の改良(DYNEQ)
実務でよく用いられるSHAKEが加速度を過大評価するメカニズムを明らかにし、その改良法を提案した。東大千葉実験所で1987年千葉県東方沖地震の際に観測された鉛直アレーのシミュレーション。最大ひずみが0.08%で、SHAKEの適用範囲といわれているが、図の矢印で示した観測値のピークに対し、SHAKEが過大評価していること、DYNEQではよく一致していることがわかる。

出典:Yoshida, N., Kobayashi, S., Suetomi, I. and Miura, K. (2002): Equivalent linear method considering frequency dependent characteristics of stiffness and damping, Soil Dynamics and Earthquake Engineering, Elsevier, Vol. 22, No. 3, pp. 205-222

中央防災会議での東海地震の研究に「DYNES」を利用

私が開発したプログラムが使われた例として、応用地質(株)時代の中央防災会議での南海・東南海地震の防災対策があります。それまでの検討では等価線形解析法による地盤の地震応答解析プログラム「SHAKE」を使っていました。しかしSHAKEは30年以上前に開発されたプログラムもあり、逐次積分法が可能な最新のプログラムで評価したいというニーズがあり、「DYNES」を使うことになりました。このときは500台くらいのパソコンを使い、数十万ケースの解析を行いました。このほか、最近では研究者の方や技術者の方から使っているという報告を受けており、結構使われるようになってきているのではないかと感じています。

東北学院大学に移ってきて、ここ2年は学生の教育にかなり時間を費やしてきましたが、書きたい論文も多くあります。昨年、日本地震工学会の講習会で行った実務のための全応力解析についても、書籍としてまとめたいと思っています。さらに忙しさのあまり一時ストップしていたプログラム開発も、新しいアイデアを出すなどして進めていきたいと思っています。

建築工学から地盤工学に転進

私は30歳で佐藤工業(株)に入社しました。当時、佐藤工業が原子力発電所の耐震設計を受けており、京都大学の研究室の先輩がいらしたこともあり入社しました。耐震設計をするとどうしても地盤も関係してくることから、地盤もやるようになりました。液状化問題も原子力発電所付近の埋戻しの岩砕が液状化しないかを調査したのが初めです。その当時、入力地震動の加速度が開放基盤面で600ガルと非常に大きく、液状化の基準を適用するとその埋戻しの岩砕が液状化するという結果がでました。実際には起こりえないことですが、液状化の知識がなかったため石原研而先生にアドバイスをいただきました。そのときに「YUSAYUSA」を紹介していただきました。それが後にYUSAYUSA-2の開発につながったわけです。

その後、カナダのFinn先生の元でPost doctoral fellowとして研究する機会を得ました。その際に、たぶん世界初のFEMによる液状化解析プログラムであるTARAの改良(TARA-3)を行い、盛土上の構造物の変形などの研究を行いました。そうしたら建築よりも地盤の方が面白くなり、以来地盤を専門とするようになりました。

建築から土木に移ったので、土木一筋にやってきた人とは視点が違います。そのためメカニズムなどでひっかかることがありますが、視点が違うのもいいのではないかと思っています。

地盤系コンサルタントで最も信頼性の高いCTC

CTC(旧CRC)とは30年近いお付き合いになります。同業他社との大きな違いは、中身を理解しているエンジニアが大勢おり、その人たちが実務を担当しているという点です。CTCの方とは1983年に地中構造物の多入力解析コードの開発に際して、一緒に論文を書いたこともあります。長年にわたるノウハウの蓄積も豊富で高い技術力をもっているCTCは、地盤系コンサルタントの中で一番信頼しています。これからもこうしたCTCのセンスをなるべく持続していただくことを期待しています。

インタビューを終えて │ 後 記 │Editor's notes
吉田先生は昔から非常に優れた数値解析技術を保有されており、いろいろな場面で教えを請うたこともあり、また先生が書かれて論文にも多くの示唆があり、たいへん勉強させていただきました。ソフトウェア開発をなりわいとしている当社としては先生が培ってきたノウハウは多いに参考となります。また、先生のプログラム開発に対してのバイタリティには感銘を受けるものであり、当社若手スタッフへのよき手本となります。これからもさまざまなかたちで技術的ご支援を賜りたいと思っております。
長い時間のインタビューをありがとうございました。(聞き手:CTC亀岡)

大学・研究室概要 東北学院大学 環境建設工学科 吉田研究室 
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